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二人禿 

毎年の初春公演の幕開きは「寿式三番叟」「七福神宝の入舩」「花競四季寿」「寿柱立万歳」などがありますが、今回の

   二人禿

も大事な演目です。
「禿」はもともとおかっぱ頭のこと。古典文学で有名なのは

   平家物語

冒頭近くの「かむろ(禿、禿童)」。清盛が「平家の悪口いうやつはいねがー」(「なまはげ」かい?)と都中にわざと目立つ禿頭(かむろあたま)の偵察隊を放ったという話。成り上がり権力者は怯えるのですね。

でも、江戸時代になると

  遊女見習い

の女の子を指すようになります。
太夫・おいらんの身の回りの世話をしたりして修業したんですね。もともとはやはりおかっぱで、やがて文楽「二人禿」のように禿島田を結うのですね。
「私が昔は、うき河竹の傾城」(嫗山姥)とか、「うき河竹のつとめ奉公」(落語「天神山」)とかいいますが、遊女のつとめは浮き沈みして流されるネンジュ藻(河竹)のように浮き(憂き)ものでした。

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その予備軍の双子のような可憐な禿たち。その正月風景はあでやかでいて憂きもの、けっして晴れ着で着飾った少女たちの羽根つき風景ではなく、いつしかネンジュ藻になるであろうものうげな雰囲気も欲しい演目です。

「禿、禿」とたくさんさうに言うておくれな
エ、憂きの廓。外でなぶられ内ではせかれ
ほんに身も代も内緒の


とは切ないものです。

…なんてまあ、あれこれ書いたのですが、要するに、休演中の

  吉田玉英 さん

の禿が好きだということが言いたかったのです。
玉英さんの禿を、私はずいぶん拝見した記憶があります。実際の回数はさほどではないかも知れませんが、それほど印象が強かったのでしょう。
最近は、

    老女役

に何かを見出だされたように思うのですが、禿にもまた玉英さんのよさを感じます。場の中ほどにいてもどこか一歩引いたような存在。
「妹遣い」と私は勝手に呼んでいるのです。

 この婆も次女と生(あ)れしと思はする
  「妹遣い」か吉田玉英

 いたいけの禿つく羽根ゆらゆらと
  ゆれて汝(なれ)らもネンジュ藻となる

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コメント

玉英さん

玉英さん、心配です。
私が顔と名前が一致する数少ない人形遣さんのお一人ですから・・・
私が強く印象に残っているのは、12月東京公演の「近江源氏先陣館」の篝火です。
自分でも理由はわから無いのですが・・・
ただ、この時一緒に行った文楽デビューの友人が、一番印象に残ったのが篝火だそうです。彼女いわく「人形に人格を感じた」そうです。
普通に考えて、「伊達娘恋緋鹿子」の“お七”だと思ったのですが・・・
ゆっくり療養されて、2月の東京公演ではお元気なお姿が拝見できればと思います。

♪くみさん

玉英さん、なかなか評価が高いですね。それにお名前とお顔が早くも一致しているとは印象的な証拠。
亡くなった吉田玉男師匠の門下というと、ほぼ立役を軸にされている方々ですから、珍しい存在ですね。
私も玉英さんは割合に早く覚えた方ですよ。

妹とみるか姉とみるか

こういうことにとんと疎いのですが、玉英さんが「同期生の中ではお兄ちゃんだった」と伺ったことがあります。誰と同期で、いくつ年上だとかは聞き返しませんでしたが。

実際の生まれ順や入門時の年齢くらいでヒトのキャラが簡単に変わるものではないとも思いつつも、あのどこか落ちついた感じが、「おっとりした長女」のイメージと結びついたので記憶のどこかに残っていました。

同じ対象を見て「妹」を見る人あり「姉」を見る人あり。人の感覚って面白いですね。

♪えるさん

亀次、勘弥あたりが同期ではないでしょうか。多分あのへんです。
実はお兄ちゃんであるがゆえの妹ぶりというのもありそうな……。

なんだか意外

玉英さんの話からずれてしまってごめんなさい。勘弥さんが簑二郎さんと同期じゃないというのが何だか意外でした。へー、へー、という感じです。何となく交替で競演とかの組み合わせが多いもので、ワンセット感がありました。

このお二人はそれぞれ違ってて面白いんですが、玉英さんはそのどちらともまたちがってるのが面白いんですよね。

♪えるさん

そうなんです、1期違うんです。ただ、お二人は実力伯仲、同学年、そして勘弥さんが短期間文楽を離れたことがあって、横一線ですかね。
個性の異なるライバルですね。

そんなことがあったんですかー

勘弥さんが一時期文楽を離れておられたとは存じませんでした。ブランクの分、番付が一年分ほど下がったということなのでしょうか。それにしてもよく戻ってくださったこと。

意外に多いのでしょうか、そういう方は(実は有名で私が知らないだけ?)。

他では・・・

越路師匠、嶋大夫さんなども文楽を離れられた時期があったそうですね。

♪えるさん&やたけたの熊さん

いらっしゃいますね、かなり。
トンカツ屋をされた越路師匠は有名ですし、現役では嶋師匠も政岡を遣われた師匠も、若手の太夫さん、人形さんにも……いろいろ。
自分に限界を感じ、周囲がすべて自分より優っていると思い詰めたり、家庭の事情、夢の変更、師匠の逝去、生活苦……青春の蹉跌って、ありますね。今も「一時外出中」の人、またやりたいと思われたらカムバック! まずは相談しましょう。

すごいドラマがあちこちに

そういえば、栄御前で若返られた方が、というのは伺ったことがありましたが、けっこう多いのですね……。ということは、離れても戻って来ることのできる世界だということですよね。何となく、一生結界が張られてしまうみたいな先入観を持っていました。

考えてみたら、普通の仕事みたいに同業他社があるわけじゃなし、似たような仕事に就ける場もそうそうないとなれば、「やっぱりこれしかない」と思い直したときには古巣へ頭を下げるしかないのでしょう。

うーわー。想像するだけで冷汗が出てきます。挨拶が苦手な私だったら、ハードルを越えられずに全部を捨ててしまいそうです。一旦離れた後で復帰するのって、初めて入門するとき以上の決意が必要だと思うんですが。「ブランクのある方」とは、とりもなおさず、それを乗り越えた方ばかりなのですね。

それぞれのケースで、相談に乗った人があったり、間に立って話をまとめた人があったり、もしかしたら迎えに来た方がいたかもしれません。考えてみたら、ものすごいドラマです。しかもそれが何人分も! 気が遠くなりそうです。

♪えるさん

師匠が迎えに来てくれはった、という話、紋寿さんが書いていらっしゃいましたね。
間に立つ人、あとを引き受ける人、そして迎えるファン。
いいですね……。

離れていく方

生活苦というのも切ないですが(子供の将来を思えば、教育費なども気にかかりますよね)、「師匠の逝去」というのは胸がしめつけられる思いです。

それを思うと「師匠が迎えに来てくれた」というのは、幸せですね。

「妹」といっても

上の歌にあるとおり、藤十郎さんが玉英さんを評するときに頭にあった「妹」は「次女」、姉と妹にはさまれて陰に隠れる中間子だったと思うのです。

でも、妹の妹のそのまた妹といえば、皆の愛と関心を一身に浴びる末っ子。

この間、とある大物の師匠の舞台を見ていまして、「この人こそ、天下の末っ子遣いではないか」と思わずにはいられませんでした(実際の生まれ順は存じませんが)。どんなに大物になろうとも、末っ子の愛敬があってこそこの方だと思えたのです。

♪えるさん

いまどきの若者でも、師弟関係にそれだけ深くのめりこめる人もあるのですね。師匠冥利かも知れません。
師匠が迎えに来てくれた話はいいですよね。私も今、誰よりも東京の恩師に会いたいです。

♪えるさん

妹にもいろんなタイプはあって、玉英さんが果たして末っ子的妹なのかどうかはこれまた観客の受け止め自由ですが、私は「しっかりした、堅実な妹」の印象が強いです。
千本のお里や妹背山のお三輪のような一途でおきゃんな感じとははちょっとちがうのです。

少子化

こういうのって、見る人のお人形観ではなく、その人が今までに実人生でどんなお姉ちゃん、どんな妹を見てきたかに左右されるのでしょうね。私は一人っ子なので実体験ゼロなのです。ネタ元は同級生だったり書籍だったり。

私が唱えた玉英さん(のお人形)長姉説は「子守りなんかさせられまくって鍛えられたお姉ちゃん」のイメージだったんですが、『若草物語』など思い返すと三女のベスが当たってるかも。

今の世の中のように一世帯あたりの子どもの人数が少なくなると、「中間子」って少なくなりますね。「末っ子」も言葉としては残るにせよ、実物は今でも相当減っているのでしょうか。

ふと

メグ:簑二郎
ジョー:勘十郎
ベス:玉英
エイミー:簑助

なんてのを考えてみました。年齢とか芸歴とかむちゃくちゃですけど!

しかし姉妹の話が出たときに最初に思い浮かべたのは『細雪』でも『若草物語』でもなく、マンガの『大阪豆ゴハン』だったのでした……。

♪えるさん

「だんご3兄弟」がはやりましたが、あそこでは「弟思いの長男」「兄さん思いの三男」に対して「自分が一番次男」でした。私、そのわがまま次男です(下は妹)。
たしかに3人以上の兄弟姉妹は減りましたね。
でも、子育てに苦労はしても、老後は3倍も4倍も孝行が(多分)返ってくるわけで、子だくさんも悪くないですよ。
玉英さん、三女だったのかあ……。

それだけ愛された師匠なら

夢枕に立ってくれませんかねえ。

「○○(仲の良かった弟弟子の名前を適宜、代入されたし)のところへ行け」とか。

♪えるさん

新しい人生で文楽での体験を生かして幸せにされていたら、それはそれでいいのですが。
将来有望、と言われた人が「生活のために」と辞めていった話はやはりひっかかるものがあります。
奥様が職を持たれたりアルバイトをしたりして生活を支えたという話も当たり前のように聞きます。
文楽の奥様方もなかなか大変です。

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上の「管理人のみ…」コメントは

えるさんがショックのあまりうっかり「管理人のみ」にしてしまったそうで、ご本人から公開依頼がありました。
次の通りです。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆

ああ!
何ということでしょう……

ただただ、言葉が見つかりません。
Posted by える
10/03/08 20:48:24

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