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三番叟は大地の歌(4) 

「アヽラめでたやな。物に心得たるアドの太夫殿に見参申さう」
「てうど参つて候ふ」
「誰がお立ち候ふぞ」
「年頃の朋輩つれ友達、御アドのために罷り立ちて候ふ。今日の三番叟、猿楽きりきり尋常に舞うておりそへ。色の黒い尉殿」
「この色の黒き尉が、今日の御祈祷を千秋万歳所繁昌と舞ひ納めうずることは何よりもつてやすう候(ざう)。まづアドの太夫殿には元の座敷へおもおもと御直り候へ」
「某が元の座敷へ直らうずることは、尉殿の舞ひよりもいとやすうざう。御舞なうては直り候ふまじ。御舞ひ候へ」
「御直り候へ」
「御舞ひ候へ」
「あらやうがましや」
「さらば鈴を参らせう」

そなたこそ。

千歳から千秋万歳いついつまでも繁盛しますように、と舞い納めを求められた三番叟。もちろん舞いますが、あなたは元の座敷にお戻りください。舞ってくだされば戻りましょう、お直りを、舞を。とやりとりがあって、「それなら鈴を差し上げるので舞ってください」ということになります。「やうがまし」というのは、いろいろ条件が難しいですね、という感じでしょうか。
千歳はかくして元の座に直ります。

初日は諸願満足円満、二日の日はまた二つ柱。宇津女の神子が、ひと、ふた、み、よ、いつ、むゆ、なな、や、ここのたり。ももちよろずの舞の袖。五月のさ女房が笠の端はをつらねて早苗追つ取り、打上(うちや)げて諷うた。千町万町億万町。田をばぞんぶりぞ、田をばぞんぶりぞ、ぞんぶり、ぞんぶり、ぞんぶりぞ。御田を植ゑるならば、笠買うて着せうぞ。笠買うてたもるならば、なほも田を植ゑうよ。三日は福徳寿福円満、子徳人の子宝、車座に並べた。たつまついるまつかいつくひっつく、火打袋にぶらりと付けて候ぞ。これ式三の故実にて、三日(さんじつ)これを舞ふとかや。

こうなるとやはり作物の豊穣を祈り願う大地の歌らしくなってくるように思います。「ぞんぶり」というのは水を跳ね上げて歩き回るときの音として用いられることがあるようで、田の中の水を跳ね上げながら苗を植えていくことをいうのでしょうか。
田植えをするなら笠をあげよう、笠をくれるならもっと植えよう。勤勉で楽しげです。三番叟は種を蒔いたり鶴の仕草をしたり。
そしてついにやってきました。あの旋律。

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ゆったりとしたチリンチチン、チリンチチン、トチ、トチ、トチ。クライマックスです。
同じメロディが次第にテンポを上げながら十六ぱい。
興奮の坩堝と化すようです。

柳は緑、花は紅。数々や。浜の真砂は尽きるとも、尽きせぬ和歌ぞ敷島の神の教への国つ民、治まる御代こそ目出たけれ。

こうして

    めでたけれ

と言ってもらったらほんとうにめでたいとしか言いようがありません。三番叟は客席に向かって鈴を振りますが、この祝福もうれしいものです。きっといいことがある、と信じて(実際はしんどいことも多いけど)一年を生きていこうと思えます。
初春公演の縁起物の演目には「七福神宝の入舩」「寿柱立万歳」などもありますが、圧倒的に三番叟に人気があるのもうなずけるようです。

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コメント

神様が喜ぶ音 : 鈴

銅鐸。ほらっ、考古学でおなじみの釣鐘をちっちゃくしたようなヤツ。古代の儀式に使われたものとされてますが真相はナゾだそうです。

考古学者のなかには、銅鐸は鈴の起源ではないか、という人もいるそうです。知人から薦められ「葬られた王朝~古代出雲の謎を解く」という梅原猛さんの本をちょうどいま読んでいて、そんな説が紹介されていました。

この本では、能楽「翁」で荒々しく舞う三番叟が、鈴を与えられたとたんにおとなしくなり稲作に欠かせない種まきの仕草をすると書かれています。

三番叟は、古代の匂いがたちこめる舞踊ですね。

♪やたけたの熊さん

相変わらず読書家ですね。
鈴の音は「言霊(ことだま)」ならぬ「音霊」がありそうです。神社でも欠かせませんし、猫にも必要(?)。

金属音って、神仏を呼びだす音なんだと思います。鰐口や釣鐘、おぶったんの鈴(りん)だけでなく、誓いの金打だって。

あの鈴はいかにも稲穂ですね(笑)。

♪えるさん

昔の学校では「小使いさん」が廊下を歩きながらベルを鳴らして始業、終業の合図をしたとか。火事の半鐘だとか教会のベルとか中国での木鐸による法令の伝達とか、音の大きさもあって鈴系の音は人をハッとさせる力がありますね。初詣では来年も神社の鈴を鳴らしますか。

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