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和田合戦女舞鶴(第三の4) 

板額は足音を立てずに表のほうに行ったかと思うと板間をガタガタいわせてあたかも人が入ってきたかのように装います。そしてまた足音を立てずに元に戻ってさりげない様子で
「そこにきたのは誰じゃ」というのです。「え? なんですって、

    荏柄平太!?

姫君の仇の平太か!」と独り言を始めたのです。尼君、綱手、与市、そして市若も様子をうかがっています。
「私に言いたいことがある? え? あの市若を取り返しに来た? それはだめです。たしかに市若は

    あなたの子

ですが、私と与市殿が育てたからは私の子。今になって返せなんて。あなたは主殺し。自分がその子だと知ったら市若は腹を切らねばなりません。先ほど、もし自分が公暁の立場なら腹を切ってさすがは武士だといわれたいと言っていました。かわいそうに、取り返すなどといわないで。え? 踏み込んで取り返す? なりません」
板額畢生の大芝居です。
与市は板額のはかりごとだと察しますが、尼君と綱手はわけがわかりません。
そして一間にいる市若は、自分が実は平太の子だったとは・・・とついに覚悟を決めて腹を切りました。

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血煙が障子に映ったのを見て板額は市若のもとに駆け寄ります。
公暁が灯りを差し出すと市若が苦しい息をついて語ります。
「私は実は主殺しの平太の子だというので腹を切りました。もし父上が手柄も立てずに死んだとお叱りなら詫び言をしてください。たとえ荏柄のこであっても、やはり父上と母上を本当の親だと思っていますので、子だと思って回向してください」
板額は胸が張り裂けるような思いをして市若に言います。
「公暁様は実は先の将軍様のお子様。父上がお前をよこされたのは、身代わりになって手柄を立てよということだったのです。どうしてあなたが荏柄の子でしょうか。

  ほんの、ほんぼんの、ほんの子

じゃ! 大きな手柄ですよ。潔く死んで! それにしても、どうして武士の子に生まれたのでしょう・・・」
表では与市も「市若、父も来ている」と声を挙げます。
市若は「それでは荏柄の子でなく、手柄にもなるのですか。

    嬉しうございます」

といってついに息を引き取ります。
一同が泣き崩れる中、綱手は「これも夫のしわざのため」と自害しようとします。しかし尼君が「夫の行方を尋ねた上で仇を討ってくれ。市若への追善には公暁を出家させて後世を弔わせましょう」といって公暁の髻を切り、「綱手と共にこの家を立ち退いてしかるべき師匠を捜して出家しなさい」と命じます。のちに公暁(きんさと)の文字をそのまま音読みにして公暁(くぎょう)といったのはこの人のことなのです。
明け方になり、また鬨の声が聞こえてきます。板額は涙ながらに市若の首を落とし、「公暁の首を討ちました。受け取る方はお通りなさい」というと与市が入ってきて「受け取る市若がここにいます」とわが子の名を名乗ってやるのでした。

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コメント

この段は

 早稲田で英大夫・清友のコンビで聞きました。板額の一人芝居と、そのあとのわが子を抱いて「ほんの、ほんの・・・」と嘆くところは本当に凄かった。でも、わが子かわいさよりも、武家の論理で息子に腹を切らせるあたりが、今日の考え方と全く違う、それを納得させる語りでした。
 このお話、大阪ではずっと出ていませんね。東京でもこの20年くらい出ていません。残念なことですが。

♪まゆみこさん

子を身代わりにするのみならず、偽りを言って腹を切らせるところが凄まじく、それだけに「ほんぼんの・・・」という場面が悲しいです。
人形に工夫をして、数年計画で上演できればと思うのですが。

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