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「権太」が討ち取ったもの 

通しとは言わないまでも、せめて端場だけは付けてほしかった「すしや」でした。さほどおもしろくなければまあそれでもいいか、と済ませるのですが、なにしろ勘十郎さんの権太がおもしろかっただけに愚痴のひとつも言いたくなるのです。
段切で、ぱぁーっとなぞが解けていくのに、端場での仕込がないからなにやら消化不良。「すしや」なんて何度も上演されてたいていのお客さんは観ているわけだし、初めての人でもプログラムにあらすじは書かれ、イヤホンガイドでもお話があるのだから、いまさら説明は要らないでしょう、という考えがあるならそれはちょっと違うのではないか。
たとえば、若葉内侍と六代が捕縛されて出てきます(実は小仙と善太)が、その装束は直前に出ていますからよくわかる。しかし一文笛に促されて現れた実の内侍の

    茶汲み女

の姿はいったい何なのか、いや、茶汲みとわかるのか。感覚的に、「ああ、あの衣装はさきほど(端場)の」と感じさせてくれるかどうかはかなり違ったものだと思います。
ストーリーがわかっていればそれでいいのではないのですね。
そういうところをもっと大事にして欲しいと感じないわけにはいかなかったのです。
私は何が何でも大序から結末まで通さないとダメだと思っているわけではないのですが、今回の出し方はあまりにも、と思いました。

さて、それにしてもおもしろかったのは勘十郎さんの権太と簑二郎さんの母。
簑二郎さんは何もかも呑み込んだ円熟した母親で、若い者をうまく導いていく意思のはっきりした人物像でした。だからこそ「これも騙りかしらねども」と思いつつもあっさりと権太に金を渡そうとする弱みが浮き彫りにされたようでした。最初は権太をしっかり叱りつけ、母としての威厳も見せながら、「遠いところへ参ります」の殺し文句にころり。「雁首でこちこちが」といわれるとさながら二人組のこそどろとなり、ついにはあき桶に金を入れて「親子して、銀を漬けたる黄金鮓」。ただただおかしくて笑ってしまいました。もちろんそのおかしさの背後にある人間の弱みを感じながら。金をすし桶に入れたときに母は

    ヤッチャッタ!

という表情をしたように見えました。
こんなおかしい「すしや」はかつてなかったかも、というくらい楽しく拝見しました。やはり何度か見るうちにこちらが年齢を重ねていくだけに面白みが違ってきます。

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勘十郎さんの権太がまたけっさくでした。
なにしろ視線の使い方がうまい。母親をうまく騙せたか、それを横目でにらみながら次の芝居にかかろうとする

    小悪党

の文字通りの悪智恵。生き生きしていました。権太の演技にはこれまで先人によって培われてきた型がありますが、その型の合間、合間に挟まれるこまやかな人物描写。すーっと動いていく視線によって、観客もそれに引きこまれて芝居の世界に入っていくことができる。
「しやくりあげても出ぬ涙」なんて猿芝居なのに、それに騙されるから母子の人間関係がよくわかり、このあたりは勘十郎さんが母の人形まで動かしているような錯覚すら覚えました。
父親はちょっと苦手な権太。「南無三親父」というのも男なら誰も身に覚えのありそうな感情。父親は鬱陶しい存在です。
権太の二度目の出、「様子を聞いたか」からは一気呵成。
そしていよいよ「維盛夫婦、ガキめまで」。実際は権太の一家ですから、文字通り自縄自縛。一家の母子(内侍と六代実は小仙と善太)は「生け捕つたり」、父(維盛実は権太)は「討ち取つたり」。語りは「討ち取つたり」を高らかに。権太はこの時点で自らの死を予言しているかのようです。権太が縛られた母子と寸時の別れを惜しむのは一家揃っての忠義の喜びの涙とも、来世での即時再会を確信する満足かも。深読みはこの程度にしますが、そんな

    錯覚

をさせてくれる作品こそ名作なのではないか。
権太の述懐。勘十郎さんは、一息しゃべるごとに弱まる命を感じさせる。こういう時間の変化の捉え方が勘十郎さんの人形の特長だと私は思っています。加古川本蔵でもそうでしたが、人形が時間を支配し、観客と時間を共有する。なんという至高の芸術。
これは、今、しばしば勘十郎さんの左を持つ幸助さんに是非継いでほしいと願っています。
父と息子は誤解が解けないまま別れることも多い。しかし権太と弥左衛門はそれを果たせた。逆縁にはなったけれど、権太もまた孝行ができたのです。段切は権太の死で血脈が途絶えるはずの弥助鮓が現代(我々の言うところの18世紀)まで続いて

    「今に栄ふる

花の里」。
こんな悲劇がどこにあるかというような華やかな語り。むしろハッピーエンドの気味合い。咲くも咲かぬも散るも桜。千本桜は全編桜。道行にも断絶なく続いていきます。
やっぱり通しがいいかな、と思える名作です。

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