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かぐや姫の要求 

竹取物語の話です。
あのかぐや姫のお話は『竹取物語』以外にも似たようなものが伝えられています。
竹取の翁が美しい仙女に出会うというだけなら『万葉集』にもあります。
『海道記』という紀行文(貞応2年【1223】の出来事が記される)には

    鶯の卵

から生まれた娘が「赫奕姫(かぐやひめ)」となった話があります。
そのほかにも古い古今和歌集の注釈書(『古今和歌集序聞書三流抄』『古今為家抄』)には、

  駿河国の竹林にあった鶯の卵から生まれた姫が帝の妃となる。
  三年後に鏡を形見にして消え去り、帝は胸に鏡を抱いたので
  その燃える「思ひ」が「ひ(火)」となって鏡に移り、煙を出す。
  そこで彼女の生まれた駿河の富士山に鏡は置かれた。
  それが富士の煙なのだ

という話が残っています。また、

    『今昔物語集』

には「かぐや姫」という名は出てこないのですが極めてよく似た話があります(巻31ー33)。ただし『竹取物語』では姫が難題を出した求婚者は5人ですが、『今昔』では3人。しかもその難題は「空になる雷」「優曇華の花」「打たぬに鳴る鼓」で、『竹取』とは異なっているのです。
雷を持って来いとか打たないでもなる鼓を持って来いとか、この娘(かぐや姫に当たる女)は打楽器好きなのでしょうか(笑)。
それは冗談としても、「珍しいもの」「ありえないもの」が要求されているように思います。

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ところが、『竹取物語』のかぐや姫が要求したのは
  
  仏の石の鉢
  蓬莱の玉の枝
  火鼠の皮衣
  龍の頸の玉
  燕の子安貝

で、これらも珍品には違いないのですが、まったくありえないものというわけでもなさそうなのです。
仏の石の鉢というのは釈迦が四天王から献ぜられた四つの鉢をひとつにしたものという伝承のある鉢で、「四天王奉鉢」は仏教美術のテーマにもなっています。
紺青の光(大唐西域記)とも黒っぽい光(法顕伝)とも言われ、青い光などと言うと、あの正倉院にある「瑠璃坏(るりのつき)」すら思い出させる宝物です。骨董品というか、古美術というか、そんなものを要求したようです。
蓬莱の玉の枝は金銀の散りばめられたもの、蓬莱山は伝説の山ですが、金銀というと実際にあるもの。だからこそくらもちの皇子は金銀などを用いて贋物の玉の枝を作り、かぐや姫を騙すことにほとんど成功したのです。
火鼠の皮衣は燃えない布。これはアスベストのことだろうともいわれます。
そして龍の頸の玉、燕の子安貝(子安貝自体は貨幣としても用いられた)。
鉢、金銀、衣、珠、貝というと、何だか今でも要求する女性がいそうな気もします。鉢は古美術、貝はお金と思っていただくと余計に(笑)。
哀れ、男たちはなんとか彼女の気を惹こうとして、命を懸けて採りにいったり、金に糸目を付けずに買おうとしたりするのです。どうしようもなければ「偽ブランド品」を持っていったり。
今でもありそうな話ではあります。

私は命を懸けたりお金をはたいたりする気はありませんし、贋物を作る甲斐性もありませんので、こんな要求をされたらあっさり諦めるでしょうね。
いえ、かぐや姫を悪い女だといっているのではありません。この世の人ではないだけにこういう要求も平気でしてしまうところがおもしろいと思いますし、また帝の求婚に対する彼女の姿勢は求愛に応じはしないもののなかなか優美なところがあり、あの古今和歌集の古注釈書とも通うところのある内容なのです。
この世は穢土。穢い所。天から下りてきた女性のほんのわずかな期間の体験です。彼女は月の世界に帰るときにこの世のことは忘れてしまいます。

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