治兵衛 

文楽に出てくる男の中でも頼りない、なさけない、の代表格が「心中天の網島」の紙屋治兵衛でしょうか。
何しろ奥さんがいて子どもが二人いて、三十におっかかり、家族に迷惑ばかりけかけている男です。
気が短いところもあって、気に食わないと暴力も辞さない。すぐに騙される、もう、ほんとうに、

    しっかりしろよ

といいたくなるような。
しかし私はこの人物をよくぞ描いてくれたと近松門左衛門には感謝しているのです。
この人物こそ私自身に他ならないからです。
次男坊で兄貴がしっかりしていて、自分と言えばうかうかとぼとぼ。
世の中にこんな、

    双子のような

人物がいるのかと思うほどです。
幸か不幸か、私は小春のように愛情を注いでくれる人がいませんでしたからなんとか事件を起こさずに済みましたが、どう転ぶかは人生のほんの微妙なあやのようなものだと感じます。
小春のいない治兵衛は果たして幸なのか不幸なのか。これもなんだか一概には言えないような気がします。

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おさんは治兵衛の妻ではありますが、実際は母親みたいなものではないでしょうか。
私にはどうもあのおさんと治兵衛の間に子どもがいるという感じがしないのです。いわばおさんの長男が治兵衛。勘太郎、お末は弟妹のようなもの。
そうなると孫右衛門はいわば父親。

    三十におっかかる

というのは仮の姿。実はまだ高校生と大差ない。
時間が年齢を作るのは事実でしょうが、万人平等に、というわけには行かないはずです。
おさんは治兵衛から見ると従妹だそうですが、恋人であったことがあったのかどうか。
小春こそが初恋の相手。これまで経験したことのないような恋愛を治兵衛はしたのではないか。
時間が追い抜いて先へ先へと進んだためにそれに追いつけなかった治兵衛。
時間は無情です。

    私だけの時間

というものが設定できるなら、と思うことがしばしばです。
私はとっくに三十におっかかり、それどころかはるかに過ぎてしまいましたが、治兵衛がその後生き続けていたら、そのなれの果てはこんな人間だったのではないかと思ってしまいます。
いや、そこまでひどくはなるまい、と泉下の治兵衛さんはおっしゃっているかもしれませんが。
私はこの作品が好きですが、なんだかいつも自分自身に会いに行くような気がしています。

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