心中紙屋治兵衛(8) 

「長町」の次が「紙屋」です。
今でも

    『天網島時雨炬燵』

の版が上演されることもありますが、この『心中紙屋治兵衛』の「紙屋」はまたちょっと違いますので、面倒ですが書いておきます。

天神橋の御前町。紙屋治兵衛の店。治兵衛は炬燵で転寝し、妻のおさんは店のことや家のことであれこれ心配りしています。いかにもしっかりした奥さんです。
夕暮れ時になっても下女の玉は使いから帰らず、丁稚の三五郎は勘太郎とお末を散歩に連れ出したままです。風が冷たく、お末が乳を飲みたがっているだろうと、おさんは子供を案じていると、勘太郎が一人で戻ったので手を温めるためにおさんは炬燵に入れてやります。そのあとに三五郎が一人で戻り、お末をどこかに忘れてきたと言います。すると玉がお末を背負って戻ったので、おさんは厳しく三五郎を咎めます。
おさんは夫を起こし、孫右衛門が来ていることを告げると治兵衛はあわてて起き上がり、算盤片手に仕事をする振りをし始めます。
ここからが近松の原作とは大いに違うところです。

太兵衛がやってきます。
「こんな贋金は要らない。ほんものの金を返せ」
と上がり口に胡坐をかいて言います。治兵衛は
「覚えのない借金だが、お侍のお世話で廿両を返した。あの時改めたではないか」
と言い返しますが、太兵衛は
「お前が小春の揚げ代に困っていたからおれが親切で立て替えたのだ。それを贋金で済ますとは、さてはあの侍といい合わせてのことだな。侍の姿もさっき見た。ここにいるのだろう。あいつを出せ」
と逆ねだれします。
「この廿両は浮瀬で石町の坊主に借りた金だ。証文の宛名を白紙で渡したのが誤りだった」
と悔やむ治兵衛をなおも太兵衛は罵倒し続けます。
腹立ち涙を流す治兵衛は
「あの隠居坊主も仲間だろう、連れてくる」
と駆け出しますが、
「今頃うかうかと石町にいるはずもありません」
とおさんに留められ、途方にくれています。

近松の原作ではいやみな男ではあっても単に小春を治兵衛と張り合って請出そうとしているだけ。どちらかというと奥さんも子どももいる治兵衛よりまともかも(笑)。しかしここでは完全に太兵衛は悪人になっていますね。贋金もどうやらほんとうに作ったものらしいのです。あとでそれがわかります。

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そこにちょんがれ坊主(伝海)がやってきます。おさんが帰るように言いますが伝海は
「この顔に見覚えがあるはず」
と治兵衛に顔を見せると、例の石町の坊主でした。よいところに、とばかりに中に引きずり込む治兵衛ですが、伝海は平気な顔をして、そこでちょんがれを始めます。その内容は小春に入れあげる治兵衛を揶揄するものでした(このちょんがれは紙尽くしになっており、近松の原作の「河庄」冒頭に登場するなまいだ坊主を思わせる)。治兵衛がそれを聞いて憤慨すると、伝海は
「内容が誰のことかは知らないが、今はやっているから歌っただけだ」
と言い張ると、治兵衛は
「石町の坊主となって小春を浮瀬に連れてきて、私が難儀をしているところを見て『宛名は要らない』と言って廿両を貸したではないか」
と詰め寄ります。伝海は
「借りたというなら返せ。貸した覚えはないが」
と答えます。
一方太兵衛は
「話が済んだら金を返せ。代官所へ連れて行くぞ」
と言うので、治兵衛は挟み撃ち状態です。
逆上した治兵衛は戸棚の脇差を取って抜こうとしますが、やはりおさんが抱きとめます。すると孫右衛門が現れ、
「そいつらはそうやってお前に腹を立たせて大事にしようという魂胆だ」
と計略に乗らないよう押しとどめます。
そこに紀伊国屋才兵衛がやってきて、太兵衛を見つけ、
「太兵衛様、この廿両は返しますから、小春を戻してください」
と声をかけます。太兵衛がなんのことかと思っていると、才兵衛は証拠があるといって小春の書置きを取り出し、太兵衛に読ませます。
「長々御世話になりましたが、いとしい方の顔が立ちませんので駆け落ちします。これまで治兵衛様といい交わしていたのはすべて偽りです。私が好きなのは太兵衛様です。これまではわざと冷たくしていましたが本当は身請けしていただいて夫婦になりたいと思っていたのです。その太兵衛様が廿両の手付けを親方様に渡されたそうですが、好ましからぬことというご様子で、一緒になることはできないようです。それなら、と一人で死ぬ覚悟です。それにしても太兵衛様はほんとうに私を身請けされるのか、騙していらっしゃるのか、むごいお方です。どうもはっきりしませんので、しばらく太兵衛様がご承知のところに隠れています。もし願いが叶わないならこの手紙を形見として回向だけはしてください」
太兵衛はびっくりして「二十余年の溜涙」(弁慶じゃあるまいに)を流します。その時、太兵衛の懐から落ちた状を孫右衛門がそっと拾います。

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