上演されなかった段 

4月文楽公演『菅原伝授手習鑑』は長丁場の通しでしたが、それでも上演されなかった段がありました。

  道行詞の甘替
  安井汐待
  北嵯峨
  大内天変

がありませんでした。
昭和47年国立劇場(東京)ではこれらをすべて上演していますから、まんざら不可能ではないのでしょう。しかし、昭和47年の上演と比べると今はテンポが遅くなっているようで、文化デジタルライブラリの記録と今回のタイムテーブルの所要時間を並べてみますと

  昭和47  平成26
大内 23    24 
加茂 22    23
伝授 63    65
築地 21    21

道行 28    
安井 24    
折檻 29    30
東天 19    20
名残 72    76

車曳 27    28
茶筅 34    35
喧嘩 14    14
訴訟 51    18
切腹       37
※昭和47年は「訴訟」と「切腹」をあわせて51分

天拝 44    41
嵯峨 15 
寺入 12    14
寺子 69    76    

天変 22
     (単位は分)

ということになります。
昭和47年は全部で589分、今回は522分です。仮に、昭和47年の時間で今回上演されなかった4段を今回の公演に入れると、28(道行)+24(安井汐待)+15(北嵯峨)+22(大内天変)=89(分)ですから、522+89=611分かかってしまいます。昭和47年より22分多くかかる、ということは、大序の「大内」一段分余分にかかるということです。
今回は朝、10時30分開演で第一部が15時27分終演でしたが、道行と安井を入れるとどう考えても小一時間多くかかりますから、16時25分くらいに終わります。これだと第二部は17時開演になってしまいそうです。10時に始めても15時55分終演。これですと第二部は16時30分開演でしょうから、今回の内容でも21時28分終演。これに北嵯峨と天変を入れると22時終演でしょう。丸12時間ですね。
現実には無理に近いでしょう。
それにしても昭和47年は国立劇場も相当な力の入れようだと思います。
昭和58年1月の朝日座は道行、北嵯峨、天変がありませんが、安井はありました。今よりテンポは早いとしても、おそらく今回の公演くらいの時間はかかったでしょう。
今後、これらの段はどうなるのでしょうか。

にほんブログ村 演劇ブログへ
 ↑応援よろしく!

kgaeonrjuiをフォローしましょう

今回くらい感銘が与えられればよいではないか、と考えることもまんざらできないこともないでしょうが、話全体の受け止め方が変わってくるとしたら、やはり気になるのです。
「天変」はともかく、「道行」と「安井汐待」と「北嵯峨」がないと、どうにも桜丸夫婦の役割が淡くなってしまいます。
今の上演スタイルでは三兄弟の中では松王丸が最も目立つ存在ですが、上記の三つの段が入ったら必ずしもそうはならないだろうと思います。
「道行」は桜丸が斎世親王と苅屋姫を土師の里に連れて行こうとする(結局は安井へ向かう)場面であり、「安井汐待」は桜丸たちが安井へ行って菅丞相と姫の対面を願いながら受け入れられず、結局は姫は立田前とともに土師へ、斎世親王と桜丸は都に向かう場面、「北嵯峨」は桜丸はすでに切腹していますが、八重が登場し、そこで時平の追手に襲われて命絶えてしまう場面、そして「天変」では桜丸夫婦の霊が現れて時平をさんざんに苦しめ、苅屋姫、菅秀才の姉弟による敵討ちを成就させるわけです。道真の怒りが雷となって落ちたというだけでもよさそうなのに、作者はここに桜丸を登場させて結末としています。
ということで、今の上演では、

    桜丸夫婦の悲哀

が描かれる場面ばかりが省かれていることになります。
桜丸は事件の発端に関与していることは「加茂堤」で示されますが、このたびの上演では、その後「車曳」に行ってしまうので、無念ではあろうけれど、そこまで思いつめるのはなぜなんだろう、という印象を持ってしまい、次に姿を見せるのは「桜丸切腹」で、もう切腹するのか、と感じられないでしょうか。彼に感情移入するのがどうも不十分なまま切腹を迎えるように思います。
四段目で松王が

    「思ひ出だすは桜丸」

と言い、「天変」では亡霊としてまで登場するという桜丸の重要性が通し狂言にしてはやはりうまく伝わらないままではないか、と感じます。
現実に上演できるかどうか(時間の関係などで)は制作の立場では大事なことなのでしょうが、こうしてみるとやはり全体を上演してこそ通しなんだな、と思わないわけには行かないのです。
こうなったら、たとえば正月に大序から二段目まで(かなり時間が余りますから、それこそ祝儀曲でも付けますかね)、春に三段目から大詰まで(これまた時間は余りますからどなたかの襲名披露口上でも)やっちまうってのはいかがなもんでしょうか。

スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿















管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

この記事のトラックバックURL
http://tohjurou.blog55.fc2.com/tb.php/3140-750582a3