百人一首姥がゑとき(四) 

『万葉集』を代表する歌人の一人に大伴家持がいます。その人の歌と伝えられる

  かささぎの渡せる橋に置く霜の白きを見れば
      夜ぞ更けにける

は「鵲(かささぎ)がその羽を並べて渡すという橋のようなこの内裏の階。そこに置く霜の白さを見ると夜がすっかり更けてしまっていたのだと気付かされる」という意味ですが、この歌についての絵はかなりわかりにくいのです。

家持

これはいったい何を描いたものなのでしょうか。船も人もどうやら日本のものではありません。左に描かれる岸壁も異国風、中国風です。磐の向こう側には白い屋根(奥には青い屋根も)の家々も見えます。そして中央右の遠景には見事な姿の山。もちろん富士でも筑波山でもありません。北斎にとってはかの国にあるだろうという想像上の山なのでしょう。さらにその右手にはやはり白い屋根の家。船が浮かんでいるのは海なのか、あるいは中国の桁外れに大きな川なのか、はたまた湖か。何を運び、どこへ行くのか。
鵲は今ではカチガラス(あるいはコウライガラス)と呼ばれる鳥のことで、カチカチというような鳴き声からそう呼ばれるようです。韓国でもずばり「カチ」という名だそうです。九州に見られるようですが、元々日本にはいない鳥だったと思われます。
中国の七夕伝説では牽牛と織女が年に一度会うときに鵲が羽を連ねて橋となって渡すとされています。そして、内裏にある階(はし)もまた

    「天上の橋(階)」

ということで「鵲のはし」と美称するようになったようです。家持の歌とされるこの歌は、天の川を詠んだのか、内裏の階を詠んだのか。私は目の前の階に霜が置いているのを見て、それを「鵲の橋」に見立てたものと思っています。霜の白い色を見ると夜が更けて天上の星空のように見えるということで、地上の霜と天上の星が渾然とした美しい表現だと考えます。
水は一面の青かというとそうではなく、小さな鳥が飛んでいるあたりを中心に白い色が広がります。船はずいぶん高さがあり、階段で登って行くような作りになっています。
船に乗る男たちは鳥を指差しているようにも見え、かなたにある山や右奥の家を指しているとも見えます。また、左側の人たちは人家のほうを見ているように感じます。白い水面の向こうにある家に別れを告げているのか、あるいは長旅から戻って来て牽牛のように天の川の向こうにいる妻を思うのでしょうか。絵としては、天上に例えられる宮廷ではなく、異国ではありながらやはり庶民の生活に即したものと思われます。
なお、最初に「その人の歌と伝えられる」と書きましたが、この歌は『万葉集』には見えず、作者もほんとうに家持かどうかは疑わしいのです。『家持集』という必ずしも家持の歌を集めたとは思えない歌集から藤原定家が『新古今和歌集』、そして『百人一首』に採ったものです。

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遣唐留学生として十代にして中国に渡り、何度も帰国しようとしながら果たせず、結局かの国の土と化した阿倍仲麻呂の

  天の原ふりさけ見れば
    春日なる三笠の山に出でし月かも

は「振り返って大空を仰ぎ見ると月が見える。あれは奈良の春日の山に出ていたのと同じ月だ」という意味で、この歌は小学校の教科書に出ていたことを覚えています。私が『百人一首』で最初に暗記した歌でした。

仲麻呂

これは絵を見た瞬間にどの歌を描いたかが分かります。前の歌に続いて中国です。ひれ伏す現地の人たちの中に立つ和風の装束の貴人がいうまでもなく阿倍仲麻呂。日本を思って東の海の彼方を見ている場面でしょう。普通なら振り返って大空を望み見るとそこには月がある、という描き方をするでしょうし、実際北斎は下絵の段階では空に月を浮かべていたようなのです。しかし最終的には海面に映る月を描き、仲麻呂の視線も空に向かってはいません。唐人たちは仲麻呂に敬意を表する仕草をしていますので月は見ていません。あくまで

    仲麻呂ひとり

が見ているのだと思います。海に漂う月影は仲麻呂の心の中にゆらゆらと揺れる幻影のようですらあります。仲麻呂が立っているのは丘のようなところですが、草も見えますのであまりごつごつした岩場のような印象を受けません。むしろ狭い野原のようにすら見えます。歌では天の原(大空)を振り向いて眺めているのですが、絵では野原にいて海の月を振り返っているかのようです。
仲麻呂は唐人たちを背に東方の海を眺めていたのではありません。彼の足を見るとむしろ陸地に向かっていて、唐人たちと何やらやり取りをしていたのではないでしょうか。そしてふと海の方を振り返るとそこには満月が浮かんでいた。誰も気がつかない仲麻呂の心のうちです。月の横には船が見えます。船は大和と唐を結ぶものであるはずですが、残念ながら仲麻呂をふたたび大和の国へは運んでくれませんでした。

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