「俊寛」から「平家女護島」 

夏の文楽は近松作品を三つ上演するようです。
その中で時代物は

    平家女護島

です。この作品は好きなもので、もう何度も拝見しました。多くは玉男、簑助で、文雀(俊寛、千鳥)、文吾(俊寛)、紋寿(千鳥)というのもありました。先代勘十郎の俊寛もありましたが、先代はどちらかというと瀬尾の印象が強いです。下の世代では玉女、当代勘十郎も。
床は越路大夫、住大夫(文字大夫)、織大夫、十九大夫、英大夫、千歳大夫などで、津大夫師匠は聴いていないと思います。
昭和61年には「六波羅」「船路の道行より敷名浦」がありましたが、見慣れないというか、舞台自体も何だかこなれていなくて、その後も一度「六波羅」はありました。
今回は床が千歳、清介。手摺は玉女、簑助、紋寿、玉也、勘弥、玉志。なかなかのメンバーです。俊寛は和生さんもいいだろうと想像しています。
日本史の教科書にも出てきた鹿ケ谷の謀議では、西光が殺され、備前に流された藤原成親も餓死させられたといわれます。成親の子の成経(丹波少将)、平康頼、そして俊寛は鬼界が島に流されます。中宮(清盛の娘徳子)の御産の祈願で成経と康頼は許され、一人残された俊寛をかつての侍童の有王が訪ね、そのあと彼は何も食べずに非業の最期を遂げたと言われます。

    謡曲 「俊寛」

では、次のような内容になります。
冒頭で赦免の使者が中宮御産の祈りのために大赦が行われること、鬼界島の丹波少将成経と平康頼も許されることを紹介します。
一方、鬼界島では熊野三社を勧請した平康頼と藤原成経がそこに詣でます。俊寛は「後の世を、待たで鬼界が島守りと、なる身の果ての暗きより、暗き道にぞ入りにける(後世を待たずに鬼界が島の島守となってしまって暗きより暗き道に入ったのだ)」と嘆いています。「暗きより」は和泉式部の「暗きより暗き道にぞ入りぬべきはるかに照らせ山の端の月」を基にしていますが、もとは『法華経』「化城喩品」の「冥きより冥きに入りて永く仏名を聞かず」から来ています。
そして俊寛は2人を迎えにいき、「酒を用意した」と言います。実はそれは水、「そもそも酒といふものは、もとこれ薬の水なれば」と俊寛は言うのです。これは「平家女護島」の「酒と思ふ心が酒」につながりますね。
「頃は長月、時は重陽、所は山路、谷水の彭祖が七百歳を経しも、心を汲み得し深谷の水・・・」と言って酌み交わす水。
「げにも薬と菊水の、心の底も白衣の、濡れて干す、山路の菊の露の間に、われも千年を、経るここちする、配所はさてもいつまでぞ」という地謡の上ゲ歌。
遠島という生き地獄にいて酒に見立てた水を飲む。空は晴れても見えるのは海ばかりという孤絶の思い。わかるような、やはりわからないような。

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そこに赦免の使者が現れます。
俊寛は差し出された赦免状を康頼に読むように言います。
「中宮御産の御祈りのために、非常の大赦行はるるにより、国々の流人赦免ある、中にも鬼界島の流人の内、丹波少将成経、平判官入道康頼、二人赦免あるところなり」
俊寛は我が名がないことに動転します。同じ罪、配所も同じ、同じ大赦なのに、自分だけが。
三人でこの島にいただけでも恐ろしかったのに、荒磯島にただ一人どうやって生きていけようか。「嘆くにかひも渚の千鳥、泣くばかりなる有様かな」。

地謡が
  もとよりもこの島は、鬼界が島と聞くなれば、鬼ある
  所にて、今生よりの冥途なり。たとひいかなる鬼なり
  と、このあはれなどか知らざらん・・・。

と続けます。この一節は「平家女護島」では冒頭に用いられ、謡ガカリとして語られます。
使者に促されて康頼と成経は船に乗ります。
俊寛は康頼の袖に取り付きますが使者は許しません。
やがて船が出ると、俊寛は手を合わせて

    舟よのう

と叫びますが、むなしいことです。
「力及ばす俊寛は、もとの渚にひれ伏して、松浦佐用姫もわが身にはよも増さじと、声も惜しまず泣き居たり」。
使者や康頼、成経は「都に戻ったら必ずとりなすから心強く待っていてください」と言い、俊寛はかすかな望みを抱くものの、取り残されてしまいます。
「待てよ待てよと言ふ声も姿も次第に遠ざかる、沖つ波の幽かなる声絶えて、舟影も人影も、消えて見えずなりにけり、跡消えて見えずなりにけり・・・」。

こういう心境は、鬼界島に遠島になるという特別な環境にある人独特のもののようで、しかし実は我々とていつなんどきこれに類する状況下に置かれるかわからないともいえるのです。つまり我々の心(うら)を確かに写している。能は「うら」を「おもて」に出してくる演劇だと思います。
恐ろしいです。
そして近松はこれを「平家女護島」に置き換えます。海女千鳥、瀬尾、丹左衛門を出して「恋」(丹波少将の恋、俊寛の恋)を重要なモティーフにして浄瑠璃にしました。

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