ポコペン 

『心中天網島』の「河庄」の段は原作ではなく、改作の『心中紙屋治兵衛』のものを使っています。善六も原作には出てこない人物です。当然、ほうきの三味線を弾く(真似をする)太兵衛に合わせて善六が「つまらん菊名残の蜆川」を語る部分も原作とは異なります。
その中にこんな一節があります。

  結ぶの神の紙屑に、
  貧乏紙屋の治兵衛の女房…

この、「貧乏」のあとに太兵衛の合いの手が

    ポコペン

と入ります。
ここまでの合いの手は「ボン」とか「ペン」だったのですが、その「ペン」に「ポコ」をつけているのです。ではいったい「ポコ」あるいは「ポコペン」とは何なのでしょうか?
実は「ポコペン」ということばは、明治時代に用いられたもののようです。もともとはは中国語で、「不彀本」「不彀本児」というのが訛って日本語化したと言われます。意味は、「割りに合わない」「元値が切れる」というようなことで日清戦争の頃、兵隊によって使われたものが一般人にまで広がったようです。
意味を伝えたいから使うのであれば日本語でいいわけですが、この「プォコピェン」とでもいうのか、そういう発音がどこか滑稽で、その

    音としてのおもしろさ

ゆえに広まったのではないでしょうか?

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私の父が「子供の頃に好きだった」とかいって、田河水泡(1899~1989)の

    『のらくろ』

の復刻本を買ってきたことがありました。まだ小学生だった私もちらちらと読んでいるうちに夢中になって、何度も繰り返し読んだ覚えがあります。私は知らなかったのですが、1970年にはテレビアニメにもなったのだそうですね。
ちなみに、「のらくろ上等兵」の中には文楽にもなった「爆弾三勇士」の話も出てくるそうです。

さてこの『のらくろ』は、野良犬の黒吉が犬の軍隊に入って二等卒から失敗や手柄を重ねつつ昇進していくお話でしたが、連載とは別に『のらくろ総攻撃』『のらくろ決死隊長』『のらくろ武勇談』の、いわば三部作があってこれは満州事変、日中戦争をモチーフにしたものです。そこに熊軍(ロシア軍)にそそのかされて犬軍(日本軍)と戦う豚軍(中国軍)が出てくるのです。
そして、豚勝(トンカツ)将軍はじめ豚軍の兵士の使う言葉に中国風の言葉として、いわゆる「アルヨことば」が用いられています。「わたし・・・あるよ」「あなた、・・・する、よろし」という言葉です。「アルヨことば」は中国人の発音の記号的役割を果たしていたのだと思います(今でも漫画などでこの言い方は生きています)。

ひるがえって、「口三味線」の」太兵衛の合いの手なのですが、これも「ペン」という三味線の擬音に「ポコ」をつけて、「貧乏紙屋」=商売がダメ(ポコペンである)という揶揄をこめたものかもしれません。このあたりは明治以降に

    入れ事

として語られたものなのではないでしょうか(不勉強ですが、調べていません)。
私はこの「口三味線」の部分は初めて聴いたときからおもしろいと思わなかったのですが、明治時代には「ポコペン」でワーッと受けたのかもしれません。

こんなことを考えたのは、金水敏さんの新著『コレモ日本語アルカ』(岩波書店)を読んだからです。それについてはまた明後日。

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