明石の君 

明石(兵庫県明石市)というのは都会なのか、はたまた田舎なのか。
現代では地方都市というのが一番ふさわしい言い方になるかもしれませんが、平安時代の人の目から見るとかなりひなびた所だったはずです。

  ほのぼのと明石の浦の朝霧に
    島隠れゆく舟をしぞ思ふ

と古歌に詠まれるとおり、海があるだけ。海人が魚や海藻を採って暮らしていました。
『源氏物語』の主人公は若気の至りでライバル側(右大臣)の娘とただならぬ関係になり、ある雷の夜に、よりによってその右大臣に現場を見あらわされてしまいます。さすがに京には居づらくなり、須磨に身を隠すことになります。ちょっとしたロミオとジュリエットです。
そして、須磨で嵐に遭ったあと、住吉の神の導きもあって、明石に移ります。そこで明石の入道と出会い、「娘を高貴な人に差し上げたい」という、この人物の宿願が果たされることになります。入道の娘が「明石の君」「明石の御方」と呼ばれる人です(以下、「明石の君」と言います)。光源氏はこの女性と逢って、やがて彼女は懐妊します。光源氏が許されて京に戻ったあとに生まれたのは女の子。のちに

    明石の中宮

と呼ばれる人です。この子はやがて都に呼ばれ、光源氏の正妻紫の上の養女となることで身分も確かなものになり(紫の上は親王の娘)、やがて春宮(とうぐう。皇太子に当たる。光源氏の甥)と結婚して十三歳の晩春に(今なら小学校6年生になったばかり)男子を産みます。

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学生から「先生は源氏物語の女性の中で誰が一番好きですか?」という質問があり、私は思わず「明石の君」と言ってしまいました。その理由は彼女の聡明さと(自虐的とさえ言えそうな)

    謙虚さ

にあります(私は聡明で謙虚な人が好きだったのだ、と気付きました)。
明石の君は自分が田舎者で、とても光源氏から一人前の女としては扱ってもらえないだろうと思い込んでいます。光源氏が都に戻ったあと、偶然難波の住吉で、願ほどきに来ていた光源氏の行列を目にしたときは、その麗々しさに自分の惨めさを思い知らされたほどです。
後に彼女と娘が都に呼ばれたとき、娘を紫の上の養女に、という光源氏の提案を明石の君は受け入れます。そのほうが

    娘の将来のため

になると考えたのです。
自らは日蔭の身となって娘の幸福を願うのが明石の君です。
娘が春宮の女御(にょうご。春宮の妻)となったときに、光源氏の計らいで明石の君は実の娘の世話係のような形で再会します。しかし娘は実の母とは分かっても、幼い頃から慕ってきたのは紫の上。いくらか距離もあります。
明石の女御が子を産んだ時には、紫の上が「祖母」として「孫」の面倒を見て、明石の君は実の祖母でありながら、本来女房がつとめる産湯の世話係を淡々とつとめるのです。そのことを当たり前のようにするのがこの明石の君という人なのです。聡明で自虐的なまでに謙虚な人、といった所以です。
紫の上も明石の君の人間性を認め、二人はとても親しい関係になります。

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