女郎花(をみなへし) 

子どもの頃から植物が苦手で、花の名前はまるで覚えていませんでした。動物もだめでした。文字には興味があったのに、生きものときたらほんとうによく分かりませんでした。
それでも、春の花はまだいくらかわかりました。
すみれとかタンポポとか、桜、梅。山吹(この程度か!)。やはり春の暖かさは私のようなものにまで花に心を寄せさせる力を持つのかもしれません。
秋の花は菊くらいしか分かっていなかったのではないかと思います。キンモクセイは、当時は家にあったのかな? 
しかし、古典文学に触れるようになると、しだいに季節の植物も身近になってきます。秋であれば菊以外では萩、女郎花、尾花、藤袴、撫子、葛、桔梗。七草ですね(以下、和歌はすべて古今和歌集から引きます)。

  秋近う野はなりにけり
   白露の置ける草葉も色変はりゆく


この歌には桔梗の花が詠まれています。どこに? 実は物名(もののな)といって、言葉を隠してあるのです。「あきちかうのはなりにけり」この中に「きちかうのはな=きちこうのはな=桔梗の花」があります。

  小倉山峰立ちならしなく鹿の
    経にけむ秋を知る人ぞなき


これは女郎花です。どこに? こちらは折り句といって、各句の頭の文字をつなげると「を・み・な・へ・し」になるのです。
藤袴は香りとともに読まれることが多いのです。

  主しらぬ香こそ匂へれ
   秋の野に誰が脱ぎかけし藤袴ぞも


にほんブログ村 演劇ブログへ
 ↑応援よろしく!

kgaeonrjuiをフォローしましょう

萩は鹿と組み合わせて詠むことがしばしばあります。鹿と萩は夫婦に擬せられることもありました。

  秋萩にうらびれをれば
   あしひきの山下とよみ鹿の鳴くらむ


秋萩のことを思って心がしおれているので、山の下が響くように鹿が鳴いているのだろう、と擬人化されています。
女郎花はその名のとおり、美しい女性になぞらえて詠まれることが多いのです。「をみな」はもともと「美女」のことで、しだいに女性一般を指す「をんな」に変化していきます。ちなみに、「おみな」は別の言葉で、大人の女、老いた女。「おきな(翁)」と対になる言葉です(「媼」「嫗」の字が当てられます。「おうな」と読まれるようになりますね)。「ミ」が女、「キ」が男を表すのはイザナミ、イザナギにも見られるとおりです。「へし」は圧倒するという動詞からきているかといわれ、美女も形無しの美しい花ということかもしれません。

  名にめでて折れるばかりぞ女郎花
   我堕ちにきと人に語るな


これはあの遍昭の歌です。名に引かれて折っただけだ。美女の名をもつ女郎花を。私が女に迷って堕落したなどと人には語るなよ。おもしろい歌です。古今和歌集は女郎花の歌をずいぶん多く載せています。
単に女郎花の愛らしさをめでるだけでなく、「女郎花」という名の持つ魅力が歌ごころをかき立てるのだろうと思います。古今和歌集らしいところです。

  女郎花多かる野辺に宿りせば
    あやなくあだの名をや立ちなむ


女郎花のたくさん咲いている野辺に泊まったら、言われなく浮気者の評判を立てるでしょうか。もちろん花の女郎花を女にたとえています。
藤原頼通(道長の息子)が女房たちのいるところで話をしたあと、この歌の一節の「多かる野辺に」と言って立ち去る場面が『紫式部日記』に出てきます。女性ばかりのところにいると浮き名が立ちそうだから帰りましょう、というのです。まだ若い(当時十七歳、今で言うと高校1年生の年齢)頼通が一人前の色男のように振る舞うその姿を見て、紫式部は物語の中の男のようだと褒めています。
今度、文楽ファンのつどいである「だしまきの夕べ」がおひらきになったら「多かる野辺に」と口ずさんでみましょう。

スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿















管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

この記事のトラックバックURL
http://tohjurou.blog55.fc2.com/tb.php/3656-4a2a8ae1