落ち葉なき椎(本文その2) 

創作浄瑠璃『落ち葉なき椎』の後半を書いておきます。

和泉屋、そつとうちうなづき、
(和泉屋)「そんなことがあつたのか。笑止千万、気の毒な。まるで『朝顔話』の深雪のやうな・・。さうか、それで『夕顔』か」
(米吉)「さうなんでございますよ。それで、今日がちやうど約束の三年目の日なんだそうで。あら、何だかしめつぽくなつちまいましたね。でも、旦那様。この人の三味線と歌は聴きものでございますよ。糸の調子も自分で合はせ、寸の狂ひもございません。(夕顔に、一語ずつゆっくりと)夕顔さん、お願ひしますよ」
(和泉屋、船頭に)「船頭さん、手数をかけてすまないが、松浦様の椎の木の近くまでやつてくれないか。ああこれ、くれぐれも揺らさぬやうに頼みます」
と、汲めど尽きせぬ和泉屋の心は深き大川の水にさす櫓のどぶんちやう、蝶の戯る花よりも甘き音色の糸に乗る迦陵(かりょう)の声ぞうるはしや。

(歌。三味線の技巧もたっぷりと)
  あらたまの 年の 三年を 待ちかねて
  大川端の 都鳥 いざ言問はむ
  白雲の 遠(おち)なる人の ありやなき
  三筋の糸の いとしくも
  ちりちり とんと 会ふことの
  叶はぬ身とは 成り果つる
  頼みに思ふ 松浦様
  その椎の木の常青葉(とこあおば)
  な散りそ 散りその 願ひなり

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(和泉屋)「これは見事。いやはや驚いた。その包み込むやうな甘い音は野澤の家での修業かな」
(米吉)「さすがは和泉屋の旦那様。図星でございますよ」
(和泉屋)「ひとつ尋ねやう。(夕顔に、一語ずつゆっくりと)音を失うて、何を当て処(ど)に弾いている」
(夕顔)「心の耳でございます」
(和泉屋)「心耳心眼(しんにしんがん)、耳目に勝る、か。(夕顔に、一語ずつゆっくりと)学んだぞ、夕顔」
(船頭)「旦那様、松浦様でごぜえやす」
(和泉屋)「ご苦労でした。(夕顔に、一語ずつゆっくりと)夕顔、簾をあげてごらん。それ、今日も椎の木が葉を落とした様子はない。茂吉さんとやらは、上方の技を身につけて、きつと今夜中には帰つて来やう」
(米吉)「おつしやる通りでございます。(夕顔に、一語ずつゆっくりと)よかつたね、夕顔さん」
と交はす言葉の口元を読み取り、悟り、都鳥。笑みもほころぶ夕顔の花のかんばせ晴れ晴れと北は筑波か西は富士。皆々心和(なご)みけり。簾下ろさせ、和泉屋は、盃くいと飲み干して、
「船頭さん、ゆつくりと出しとくれ。さて、今度はなにを聴かせてくれるかな」
と言へば夕顔かしこまり、調子合はする、その折りしも、何知らするや一陣の西風さつと吹き抜くる。波にゆらりと舟傾き、ぷつつり切れたる三味の糸。夕顔はつと面を上げ、
「茂吉つあん」
と言ふより早く、簾差し上げ見上ぐれば、ひらりひらひら一枚(ひとひら)の椎の木(こ)の葉の舞ひ下りて、波に揺られて漂へり。

この作品、明日(24日)初演してくださるそうです。

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