国性爺合戦 発端(1) 

文楽初春公演の夜の部は近松門左衛門作『国性爺合戦』で、多く上演される「浜伝ひ」「もろこし舟」「千里が竹」「楼門」「甘輝館」「紅流しから獅子が城」に加えて発端の部分がついているのが注目されます。しかし、時間の関係などもあるのでしょう、完全に上演されているわけではありません。そこで、上演中の内容との重複を厭わず、発端の部分のあらすじを書いておきます。

明国十七代の思宗烈皇帝は齢四十になりますが、世継ぎがありません。そんなとき、皇帝のもっとも愛する華清夫人(くわせいぶにん)が懐妊、いよいよ産み月となりました。大司馬将軍呉三桂の妻柳歌君は最近男子を産んだため、乳母となります。
おりしも、韃靼国の順治大王の使者梅勒王が、虎や豹の皮、火浣布、馬肝石などの珍宝を貢ぎ物として訪れ、「韃靼は女の容貌が他国に劣ります。明国には華清夫人と言う美人がいらっしゃるので、その方を韃靼に迎えて大王の后とし、両国は親子となって和睦しましょう」と言います。
すると、右将軍李蹈天が「実は、かつて北方で飢饉があったとき、韃靼に援助を頼み、民を救ったことがあり、その返礼をしなければならないのです。恩を知らないのは鬼畜同然なので、すぐに華清夫人を差し上げるべきです」と言います。それを聞いた呉三桂は「韃靼は道も法もない野蛮な国だ。それが明国の民を救ったとは信じられない。民が苦しんでいるなら上のものが

    贅沢をやめれば

済むことだ。皇帝や公卿に相談もせず、懐妊中の后を夷狄(いてき)に渡せとは不審だ。このような貢ぎ物は捨ててしまえ」と反論します。
梅勒王は「恩を忘れて約束を違える明国こそ道も法もない畜生国だ。すぐに戦を起こして皇帝も夫人もわが大王の履(くつ)持ちにする」と席を蹴立てます。
すると李蹈天は「韃靼の力を得て国を助けたのに、兵乱を招いて主君や国民を苦しめ、畜生国と言わせては国の恥だ。忠臣としてこうする」といって自分の

    左目を刳り抜いて

梅勒王に差し出します。
梅勒王は「あなたこそ立派な忠臣だ。これで華清夫人を迎え取ったも同じことだ」と感心し、皇帝も李蹈天の振る舞いに感じ入って梅勒王を返すように命じて奥に入ります。

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皇帝の妹、栴檀皇女(せんだんくわうによ)は美しく、音楽にも文の道にもすぐれています。まだ十六歳ながら、色と酒に溺れて政務をおこなわない兄の皇帝を案じています。
そこに梅と桜の造枝(つくりえだ)を百人ずつの官女に持たせて引き連れた皇帝が来ます。皇帝は「第一の忠臣の李蹈天はあなたに思いを寄せているのに、あなたは承引しない。今日、韃靼が難題をもちかけたとき、呉三桂は理屈ばかり言うが、李蹈天は我が目を刳り抜いてまで忠義を尽くして救ってくれた。そこで妹婿として北京(ほくきん)の都を譲る約束をした。だがあなたはいやだと言うと思うので、梅と桜の

    花軍(はないくさ)

を催し、桜が勝ったら李蹈天の妻となれ」と命じます。
官女たちはあらかじめ梅方が負けるように言い含められており、花軍は桜の勝ちとなります。
そこに鎧兜姿の呉三桂が現れて鉾を振り回し、梅も桜も散々に散らして皇帝に言います。「戦だと聞いて駆けつけてみれば、ばかげた花軍。このようなことをしていては民までが嫁取り婿取りに花軍をおこない、果てはほんとうの戦になります。今、逆臣が宮中に入って戦を起こしても、花軍だろうと思って誰も助けにこないなら帝を見殺しにすることになります。その逆臣とは李蹈天のことです。お忘れですか、以前

    鄭芝龍

という者がお諌めした時、帝はお怒りになって鄭芝龍を追放されました。今、鄭芝龍は日本の平戸に行って老一官と名前を変えています。先年の飢饉の時、李蹈天は諸国の倉の米を盗んで『韃靼の力を得て民を救う』と言いなして、国中に米をばらまき、民を味方にして謀反を決意したのです。「明」の字は「日」と「月」。明は南にある陽の「日」の国で韃靼は北にあって陰の「月」の国。李蹈天が左目(左は陽)を刳り抜いたのは、「陽」である「日の国(明国)」を陰の「月の国(韃靼)」に与える合図なのです。だから使者も喜んで帰ったのです。このような佞臣はすぐに処罰しなければなりません」と泣いたり怒ったりしながら訴えます。しかし帝は激しく怒り、「わかったようなことをいうが、それは李蹈天をそねむからだろう。鎧兜姿で私の前に現れたお前こそ逆臣だ」と呉三桂を踏みつけます。すると御殿は鳴動し、「大明」の額が揺らいで「大」の字の一点、「明」の字の「日」へんがくだけます。呉三桂は「『大』は『一人』と書き、帝のことです。それが欠けるということは帝が半身になること、『明』の『日』がなくなるのは世が常闇となることです。私は一命をなげうっても忠臣の道は違えません」と必死に諌言します。

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