細糞 

昔のものを読んでいると、意味の分からない部分にしょっちゅう出くわします。異なった時代の、時には漢字ばかりで書かれたものを読むのですから、わからなくても当然とも言えます。
ただ、そういうものに出くわした時に、何とか読みこなしたいと思うことが仮にも昔の文献を扱う仕事をしている人間には必要なことだともいます。
まずは古語辞典のお世話になります。これで解決すれば簡単です。しかしそれには出てこないものもありますので、こうなったらもっと分厚い古語大辞典や

    日本国語大辞典

のようなものに挑みます。ただし、これとて100%信用してはいけません。なにも、辞典の編纂者にケチを付けているのではありません。どうしても人間の仕事ですから、完璧はあり得ないと言っているだけです。むしろ100%信用しないことこそその辞典に向き合う誠意ある態度だと思っています。
注釈書があればこれも頼りになります。知識と経験を持った人が書いているに違いないので、これまた

    80%

は信用できると思います。
源氏物語のように注釈の歴史が長く、膨大な成果が積み上げられている場合はかなり詳しく理解できます。しかし、注釈書はあってもたったひとつ、という場合はやはり頭から信用するだけではいけないと思います。80%と言った所以です。私も注釈書を書いたことがありますが、自信などありません。必死に調べましたが、誤解していること、明確にはわからないこともあります。むしろ厳しく訂正してくれる読者を渇望するくらいです。

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1月のある日、体調がすぐれず、一日寝ている時がありました。時々起き上がっては仕事をしたり、たまたま手元に置いていた藤原行成の日記の

    『権記』

をぱらぱらと読んだりしていました。その『権記』の長徳四年三月二十八日の記録は火事のものでした。まだ夜が明ける前のこと、藤原行成の家のしもべが「戊亥の方角が火事だ」と大声を挙げました。行成はすぐに衣冠を着けて馬に乗って内裏に向かいます。紀宣明という人物の家に強盗が押し入り、争いになるのですが、その結果(おそらく強盗が)放火したということでした。火事は広がり、神祇官という役所にまで類焼したのです。そこに「有頃右近衛申焼亡細糞入神祇官西庁瓦屋焼由」という一節がありました。「頃有りて、右近衛、焼亡せし細糞の神祇官西の庁の瓦屋に入りて焼くるの由を申す」とでも読めそうです。しばらくして、右近衛の役人が燃えた細糞が神祇官の西の庁の瓦屋に入って、焼けたということを伝えてきた」でしょうか。え?

    細糞???

ここで、はたと立ち止まってしまいました。不覚にも、私はこのことばを知りませんでした。なさけないですが、こんなこと、いくらでもあるのです。第一、何と読むのかもわかりません。仮に「ほそぐそ」と読んで辞書を見ましたがわかりませんでした。「ほ・くそ」ならありました。「火糞」で火の粉やからけし、燃えかすのようなもの。「こ・くそ」なら「木糞」で漆塗りの時に用いる木の粉などを漆に混ぜたもの。どうもこの辺が「くさい」のです。そういうものが飛んで神祇官の庁舎に入ったために類焼したということだろうかと考えました。そして最近刊行された現代語訳の本を見ると「木糞」と書いてありました。この現代語訳は日本史の偉い先生が書かれたものなので、かなり信用できますが、一般的に「細糞」と書いて「こくそ」と読むのかどうかはわかりません。日本史の研究者の皆さんは誰でも知っていることなのかな? いや私と同じ国文学の畑の人も知っているのかもしれません。こういう時は何だか寂しくなります。
でも、自分が知らなかったことを発見するのはいいことで、知らなかったら知ればいいだけのことですから、とてもいい勉強になりました。

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