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太夫陣に光明を(1) 

文楽は三位一体と言われ、太夫、三味線、人形遣いのどれが欠けても成り立たないのですが、それでも太夫がいちばん重要な立場にあると思います。野球で言えば監督とピッチャーを兼任しているようなものです。ヘッドコーチ兼キャッチャーが横にいますが、やはりボールを投げないと試合は始まらない。
我々一般人は通常人形を遣うことなどできっこありません。いきなり目の前に三味線を置かれてもどうしようもありません。ところが声を出すのは誰でもできる。カラオケで歌を唄うなんて多くの人がやっています。だから、

    欠点が見えやすい

のも長所が際立つのも太夫がいちばん、と言えるのではないでしょうか。その意味で、太夫はとても厳しい批評に晒されます。もちろんそれはファンの自由ですし、それが個々の太夫の励みになることはあり得るでしょう。しかし、ある程度発言力のある人が「あの太夫はダメだ」ということばかり言っていたのでは、太夫を育てられないことにもつながるのではないかと心配になります。

    建設的な

ものの言い方があります。ダメなものをダメというのではなくて、こうすればうまくいくという言い方です。私がもし立派な見識のある、しかも経験も知識もある批評家なら、できる限りその方向でものを言いたい。
初春公演は嶋大夫師匠の引退ということで、第一部は睦、靖、呂勢が露払いのように語り、「関取千両幟」ではゆかりのある英大夫のほか、津国、呂勢、始、睦、芳穂、靖が(ダルブキャストもありましたが)入れ替わり顔を出しました。こういう機会は若手には逃してもらいたくありません。

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太夫は日辛辣な批評に遭いやすい厳しい立場です.それはそれでしかたがないでしょう。しかし、評価する声ももっとあってほしい。このブログのどこかに書いたことがあるはずですが、私は以前東京公演で

    竹本文字栄大夫さん

が掛け合いで老婆を語られた時に「おお、孫よ」とおっしゃったひと言に感動しました。祖母の慈愛をたったひとことで感じさせてくださったからです。でも、誰もそんなことを言う人はいませんでした。それどころか、飲み会で「ありゃ、ひでえ太夫だな」と(東京だけにかなり『ひでえ』方言で)までおっしゃる方もありました。私は思わず「でもあの『おお、孫よ』はよかったです」と申しましたら、すぐ横にいた人形遣いさんも「ああ、そうですね。僕もいいなと思いました」と賛同してくれました。文字栄さんは当時、50歳を少し過ぎた頃でいらしたと思いますので、20年近く前のことです。

    竹本貴大夫さん

は、けっして大音ではなかったし、節回しのよい方でもありませんでした。東北の方でしたので訛りにも苦しまれたようです。しかしあの方はきちんと稽古された(訛りも克服した)コトバを語らせると味わいがあった。思索家のような方でしたから、コトバの中に深奥な心を込めるのは他の太夫さんにひけはとらなかったと思います。
悪いところが9つあってもいいところが1つあれば、9つのうち5つくらいまでを言いつつ、ほめるべき1つはきちんと褒めるというのが教員を長く務めてきた私の信念のようなものです。9つのうちの残りの4つは言わなくても本人はよく分かっているものです。

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