泣く男(2) 

光源氏はよく泣きます。賢木の巻の二つあとの須磨の巻では須磨に落ちた光源氏が秋風の吹く夜に目を覚ましていると「涙落つとも覚えぬに、枕うくばかりになりにけり」、と泣いています。中秋の名月の夜には「二千里の外、故人の心」という白居易の詩を朗唱し、藤壷中宮のことを思い出すと

  「よよと泣かれたまふ」

のです。
六条御息所とのもうひとつの別れは、死別です。天皇の交代によって伊勢の斎宮も代わります。そこで御息所も伊勢から都に戻ります。ところが病気になって、ついに尼となります。
光源氏は御息所を六条の屋敷に見舞います。「近き御枕上に」光源氏の座を設けて、二人はすぐ近くで話し合います。御息所がかなり衰弱しているのを見ると、光源氏は

  「いみじう泣いたまふ」

のです。御息所は「これほどに思ってくださるのか」と感銘を受けるのです。
このあと、七、八日ほどで御息所は亡くなります。
この二人は、七年の年齢差があり(御息所のほうが年長)、光源氏は若い時はどうにも気の置ける人だと感じていました。しかし、この時点では光源氏も二十九歳。須磨でのつらい体験もして大人になっています。
魂が抜け出て葵の上のところに行き、彼女を苦しめ、命を失わせた御息所はつらく悲しい人生を送ってしまいました。

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御息所は大臣の娘という高貴な家柄の人で、皇太子妃になり、将来は中宮になるだろうと期待もされていたのです。女の子も一人産みました。しかし皇太子が亡くなり、男子を産んでいないために子どもが皇位に即くこともない身の上になったのです。
順風満帆の人生のはずが、そうはいかず、光源氏と交際するようにはなりますが、必ずしもうまくいかないのです。
プライドが高く、実際風雅の道では何でもできるすぐれた人です。どうみてもセレブだったのです。でも、どんなにすぐれた人でも悲しいことはあります。
御息所は、亡くなったあと、また物語に出てきます。しかも

    死霊

として登場するのです。
光源氏の最愛の妻の紫の上が重い病気で一時息が絶えたようになったときもこの人が霊となっていました。
また、光源氏最後の妻である女三宮が出家すると言い出して、ついにそれを実行した時にも、御息所の霊が女三宮の心を惑わしたのです。

  葵の上を苦しめて命を奪い
  紫の上を苦しめて瀕死に追い込み
  女三宮を苦しめて出家させる

光源氏の三人のおもな妻をこうして苦しめ続けたのが六条御息所でした。しかし、彼女には悪意はなく、とめようのない情念がおのずから彼女を動かすのです。だからこそ、他人を苦しめれば苦しめるほど彼女自身もまた苦しんだのだろうと思います。
光源氏は見せかけではなく、六条御息所に対してほんとうに心から涙を見せたのだろうと思います。
ある学生が、「私、六条御息所がいちばん好きです」といっていました。

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