息子の喧嘩沙汰 

文化審議会が、神戸市の香雪美術館所蔵の藤原俊成自筆書状を重要文化財に指定するように答申しました。
香雪美術館は阪急電鉄御影駅の近くにあって、震災で随分周囲の様子は変わりましたが、美術館自体は今も穏やかなたたずまいをみせています。御影駅から美術館へ行く道がすでに芸術のような、とてもいいところです。そんないいところにある藤原俊成の書状、というと、和歌についてのやりとりだろう、と勝手に想像してしまうのですが、実際はまるで違います。
平安末期から鎌倉時代の貴族、九条兼実の日記『玉葉』文治元年(1185)十一月二十五日条が二日前の二十三日のできごとを書き留めています。おおむねこんなことです。

十一月二十三日の寅の日。五節の舞の御前試みという儀式が行われます。五節舞姫が内裏清涼殿に参って舞うものです。この日の夜には殿上の淵酔(ゑんずい)という無礼講の宴会があります。そこで少将源雅行と侍従

    藤原定家

の間で「闘諍」がありました。雅行が定家を嘲弄し、定家は怒りを抑えきれず脂燭で雅行を殴ったのです。「顔を殴ったともいわれる」と『玉葉』は注記しています。このことで、定家は除籍になったのです。

定家というと『新古今和歌集』『百人一首』などを作り、「来ぬ人をまつほの浦の夕凪に」などという歌を詠む人ですから、おっとりした風流人だったのかなと思うと、意外に頑固で意地っ張り。かなり激情家だったようです。文学に傾倒する人間には実はこういう人は多いのです。無礼講の宴会ですからこういうことになったのかもしれません。
定家の父の俊成は早速47人を集めて仇討を、というわけではなく、なんとか息子を助けようと、隠然と権力を持っていた後白河法皇に、和歌とともに

    「若気の至り

ですので復帰できるようにお口添えを」と、とりなしを願う手紙を出しました。その手紙の控えに当たるのがこの「書状」だそうです。やはり親というのはいつの時代も息子が不祥事を起こしたら何とかしてやろうと思うものなのですね。定家もお父さんに頭が上がらなかったかもしれません。
この話は俊成自身が撰者となった『千載和歌集』にも伝えられていて、俊成が「あしたづの雲路まよひし年暮れて霞をさへや隔てはつべき」(鶴が雲路に迷ったように息子もお許しが出ずにうらぶれて年が暮れました。霞が隔てるように春になってもお許しが出ないまま終わるのでしょうか)と詠んで許されたというのです。

にほんブログ村 演劇ブログへ
 ↑応援よろしく!

kgaeonrjuiをフォローしましょう

手紙を出す時に控えをきちんと取っていることもなるほど、と思います。今ならメールで自動的に控えることが出来ますが、紙の手紙の場合はそうはいかないですから、大事なものはコピーを取っておくのですね。貴族=風雅と思うあまり、暴力を振るうのは意外に思われるかもしれませんが、珍しいことではありません。平安時代の記録にはそういう話はいろいろ出てきます。
例えば、藤原実資の日記『小右記』の記事。寛弘六年十一月二十九日は、同二十五日に生まれた一条天皇第三皇子の

    五夜の産養(うぶやしなひ)

がおこなわれていました。五日目のお祝いです。主催したのは皇子の母方の祖父藤原道長で、雨の日でした。この夜の宴会のあと、殿上人の座で喧嘩があり、藤原伊成が凌轢され、耐え切れなかった伊成が笏で相手の藤原能信(十五歳)の肩を打ちました。するとそばにいた藤原定輔が縁から伊成を突き落とし、能信は従者を召し集めて伊成を殴らせたとも、踏み伏せて松明で打ったらしいとも書き留めています。酒の勢いか賭け事のごたごたか、貴族といっても若者、

    ばかなこと

をするものです。伊成の年齢は能信より少し上だったと思われます。
雨でぬかるむところに突き落とされて辱められた伊成はこの翌日出家してしまいます。ところが能信のほうは特にお構いなしだったように見受けられるのです。またこれだけの乱痴気騒ぎなのに、この日の主催者の道長は自分の日記に何も書いていませんし、伊成の出家についてもひと言も記録していません。
実は能信は道長の子なのです。権力者の息子なのです。
息子の喧嘩沙汰で必死に許しを請う親もいれば、権力者である親はそんなことがあったとも言わないのです。そして周りの人間も伊成を気の毒だとは思っても手は出せないでいる。なんだかなさけなくなるような話です。
実は私もカッとなると分別をなくしかねないところがあります。できるだけ自制しているのですが、我慢ならないこともあり、いろいろ失敗を重ねてきました。今また、やらかしそうな気がしていて、自分で自分が怖いです(笑)。

スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿















管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

この記事のトラックバックURL
http://tohjurou.blog55.fc2.com/tb.php/3821-8a460009