講座を終えて(1) 

学生の授業が終わってからも私はなおもおしゃべりしていました。公開講座を続けているためです。この講座は開始が遅くて6月からなのです。ですから10回連続でお話ししようとすると8月第1週まで入ってしまいます。
私は結局5日が最後でした。
この日は『源氏物語』だったのですが、私自身が一番楽しんでいるのではないかと思うほどおもしろいです。
読んでいるのは「若菜下」巻です。この日は、光源氏がその邸(六条院)で

    女楽

すなわち女性だけの演奏会を催したところを読みました。とても有名な場面で、紫の上(和琴)、明石御方(琵琶)、明石女御(筝)、女三宮(琴=きん)の四人による合奏です。
明石御方の琵琶は名人級で神々しいまでの技を披露します(と言ってもこの人は技をひけらかすような演奏はしませんが)。紫の上の和琴はとても親しみのある者で当世風の華やかさも持っています。明石女御の筝は、楽器の性質上あまり前面に出ないのですが、かわいらしく瑞々しい演奏でした。女三宮の琴はやや幼さはあるものの、最近熱心に稽古をしているので危なげはありません。
このあと光源氏は、

    薄明かりの中で

四人の女性たちの様子を見ます。女三宮は二月二十日頃の柳のわずかにしだれたような様子、明石女御は藤の花が夏になってもなお今を盛りと咲いている様子、紫の上は桜に喩えたとしてもなおも物足りないほどのすばらしさ、明石御方は花も実もある橘。そんな比喩がおこなわれるのです。着ているものは女三宮は桜襲(さくらがさね)の細長、明石女御は紅梅襲、紫の上は葡萄染(えびぞめ)の小袿に薄蘇芳の細長、明石御方は萌黄の小袿に柳襲の細長という、唯一緑系。それに彼女だけは裳を着けています。

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とても印象深い場面です。
それぞれの性格が、装束や演奏、あるいはそれぞれの召し使う女童の様子にもあらわれていて、さすがに紫式部の筆は冴えています。
こういうところで前期は終わってしまいました。実は予定よりかなり遅れているのです。しかしみなさん、あまり気にされる様子はありません。おそらく慌てて先に進むよりも

    じっくり読みたい

というお考えの方が多いのだろうと思います。
後期は、長らく続いてきた公開講座が幕を閉じる、いわば閉店セールになります。もっとも受講料は安くはなりませんが。
源氏物語については、「若菜下」巻のハイライトシーンである柏木と女三宮の

    密通

の場面までは何とか読めるようにしたいと思っています。その少し前に、源氏物語のヒロイン紫の上が重病になる場面があります。彼女は誰からも愛されて、何の苦悩もないのかというと、まったくそうではないのです。むしろ誰にも分かってもらえない苦悩を抱えて生きているのがこの人なのです。夫である光源氏すら分かっているとは言いがたい心情。紫式部は人間の心のひだを描くことについては容赦なく、徹底的に奥深いところまで突き詰めていきます。光源氏もまた俎上に載せられるのです。

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