「に」と「へ」 

学生からの質問にあった「に」と「へ」も、本来はまったく違います。「に」は空間のある一点を明確に指定する意味です。日本語では主語を省略することが多いのですが、それは行為や動作を人の主体的な動きとしてではなく、成り行きのようにとらえる傾向があるからです。そのかわり、というべきか、動作が起こる場所、存在する場所についてはきちんと表現し、その役割が「に」にありました。だから「に」はとても重要なことばだったのです。
「へ」は「辺(へ)」からできた言葉と考えられ、「端」のことです。畳の縁(へり)というのと同じです。そこで本来は遥か遠くの自分とは関係の稀薄なところに向かっていくときに用いられたようです。

    「君に会いたい」

とはいいますが「君へ会いたい」とは言いません。「ここに置く」と言っても「ここへ置く」とは言いません。
ただ、次第にこの両者は同じように遣われるようになり、今では特に厳密な使い分けはないように思われます。漠然と遠方に行く場合でも「あそこへ行く」「あそこに行く」、はっきりとして地点を示す場合でも「ここにおいで」「ここへおいで」はほとんど同じように用いられているでしょう。
ただ、私の感覚では、

    「病院に行く」

というと「気分が悪いから」「熱があるから」「治療のために」というニュアンス(はっきりした目的という意味での「明確な一点」)があり、「病院へ行く」と言うと漠然と(たとえば人に道を教える時に「あの病院へ行って、左に曲がって」というように病院の前まで行くことも含むような)した不確実さがあるのです。絶対的ではありませんが、私の感じる違いはやはり古語以来の「へ」と「に」の差だと思います。

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古語辞典におもしろい話が載っていました.室町時代には方向を示す助詞には地方によって言い方が違っていたというのです.ロドリゲスの『日本大文典』に次のような話があるそうです。

「京へ筑紫に関東さ」ということわざがある。都では方向を示す助詞として「へ」を用いるが、九州では「に」、関東では「さ」を用いる。やはり正しく上品な京の言葉を用いるべきである。

最初「さ」って何だろう?とおもったのですが、そういえば東の方では今でも「東京さ行く」という言い方が残っていますね。
当時は京の言葉は上品で正しいものと思われ、言葉のお手本だったのですね。いや、もちろん今でも京言葉はきれいですけれども、誰でもそれを遣うべきだとはいわないですよね。
「は」と「が」にしても「へ」と「に」にしても、助詞ですから些細な言葉のように思われます.しかし助詞は言葉のニュアンスを左右しますからとても大事です。

    「ゾウは鼻が長い」

この文の「長い」の主語は「ゾウ」なのか「鼻」なのか、というのを大学生の時に国語学の友人から問われました。これは当時よく売れた本の題名でもあるのです。私が「は」と「が」の役割の違いを学んだのはそのときでした。
以上のような内容をうまくまとめて、わかりやすい言葉にして授業で話すことにします。
というわけで、辞書と首っ引きになりながら予習をして、併せてブログの記事を書くという一石二鳥の離れ業をしたのでした。

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