うはなりうち(6) 

『昔々物語』の「相当打」の話はなかなかおもしろいものです。「こなみ」が親類縁者の達者な(元気な、力のある、ということでしょう)女を選抜してチームを結成し、「うはなり」の家に襲いかかるのです。しかし「木刀や棒は危険なのでたいていは竹刀」であったと記されているように、本気で相手を痛めつけようということでもなさそうです。そのいでたちは「括り袴をはいて、たすきをかけ、かぶり物や鉢巻きをして」というとおり、ちょっとしたユニフォームのような感じです。そして

    台所から入って

ものを壊しますが、これも女性の仕事場、あるいは生活の場である台所を破壊するのが主な目的で、やはり相手を傷つける意図はないようです。
そして「適当な頃に、新妻の仲人と侍女郎が元の妻の侍女郎と話した上で帰る」とあるのもおもしろいところです。思う存分暴れて憂さを晴らしたらあとは話し合いをして帰って行くというのでしょう。やっつけるほうもどこか「遊び」の要素が感じられ、やられるほうもある程度は仕方がない、という諦めがうかがえそうに思います。
つまり、喧嘩をして相手を妻の座から引きずり下ろそうというよりは、現状(男がもとの妻を見放して、新しい妻と結婚しているという状況)を認めたうえで、諦め、赦しを前提として、

    赦すための喧嘩

をしているようには見えないでしょうか。
そして最後にもう一つおもしろいことが書かれています。加勢に頼まれる人(女性)というのは何度でも頼まれる、つまりそれだけ腕っ節が強かったり、臆することがない性格であったりする人が「相当打の助っ人ならあの人」という評判をとったのではないでしょうか。七十年ほど前に八十歳ほどであった女性が「若いころに十六度頼まれた」といっていたというのですから、まさに120〜130年前の頃にはこういうことがおこなわれ、評判の助っ人女性はこんなに何度も選抜チームに入っていたということになります。

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江戸時代後期の随筆に

    『骨董集』

があります。作者は山東京伝。ここにも「うはなりうち」について書かれているのですが、その中に「およそ二百年以来、かかる風俗のあらたまりたるは、いとめでたきことならずや」という一節があります。この本が書かれたのは1800年代の初めですから、江戸時代の初期(『昔々物語』の「相当打」のころ)以来、「うはなりうち」の風俗は改まったというのです。そして『骨董集』は「古画後妻打図」という絵を載せており、この絵は昔の風俗だとしています。
以下、写真はクリックしていただくと大きくなります。

古画後妻打図
↑古画後妻打図(『骨董集』下)

左から攻めるのが「こなみ」の側でしょう。右上で逃げているのは「うはなり」とその親でしょうか、あるいは仲人のような人でしょうか。いずれにしても「うはなり」を守るような姿勢の尼です。「うはなり」は「武器」を持たず逃げ回るのみ。そして「こなみ」の側はたすきがけをして『昔々物語』が言っていたような「竹刀」ではなく、台所用品を振り回しているようです。鍋ぶた、いかき(ざる)、杓子などです。先頭の高齢の女性が右手に持っているのはすりこぎでしょうか? 「こなみ」側の下に左手を上げた女性がいますが、この人は何をしているのでしょうか? なにやら合図をしているように見えるのですが。そして右下には見物衆がいます。おとなはすべて女性です。仲裁に入る様子などありません。いったん始まったら終わるまで手出しはしないのでしょう。

古画1
↑左手にいかき

古画2
↑なべのふたと杓子?

古画3
↑たすきがけがよくわかります

古画4
↑逃げる「うはなり」

「うはなりうち」の絵は『東海道五十三次』でおなじみの

    歌川広重

も描いています。「往古うはなり打の図」というタイトルになっていますので、あくまで「往古」(昔)のできごとだといっているのです。

広重「往古うはなり打の図」
↑歌川広重「往古うはなり打の図」

これはさきほどの「古画後妻打図」より人数が多く、一方的に「こなみ」が攻めるのではなく、「うはなり」側も応戦しているようです。
彼女たちの「武器」を見て気づくのは、左側から攻める一団(こなみ側?)は台所用品を主に用いており、右側のチームは掃除用品が多いことです。
左側の「武器」には竹棒(のれん棒?火吹き竹?)、杓子、鍋のふた、米とぎざる、狭匕(せかい)、角箱、せいろ(?)、笊籬などがあります。
一方、右側の「武器」としては、ほうき、十能(?)、笠、はたきなどが見られるのです。

往古1
↑なべのふたやざる

往古2
↑狭匕(せかい)

往古3
↑ほうき

往古4
↑十能のようなもの

往古5
↑鉢巻き

そのほか、床面には、竹ささら、菜箸(?)などの台所用品が散乱しています
女性たちの出で立ちはやはりたすきがけをしており、頭には独特の鉢巻きをしているようです。
                    (明日の最終回に続く)

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