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源氏物語逍遥ーいときなき初元結(その3) 

 ともかくも、その夜、源氏は立派な儀式によって左大臣邸に婿として迎えられます。しかし女君は年少の美少年を前にして「似げなく恥づかし(不似合いで恥ずかしい)」と思います。一方の源氏も藤壷への思慕がやまず、後に葵の上と呼ばれるこの新妻のことは「心にもつかず(気に入らない)」と感じるのです。帚木巻に「あまりうるはしき御ありさまのとけがたく恥づかしげに思ひしづまりたまへる(端正に過ぎてうちとけにくく、こちらが恥ずかしくなるほどとりすましていらっしゃる)」と描かれる葵の上の性格は

    「なつかしさ(親しみやすさ)」

を求める光源氏には合わないものだったのでしょう。
 その後も光源氏は藤壷のいる内裏を好み、かつて母更衣が暮らした桐壺を自分の部屋として居続け、葵の上のいる左大臣の邸には絶え絶えに行く程度なのです。
 ところで、かつて桐壺更衣の実家であった邸はもう主がいません。そこで、帝の命令によってまたとないほど風情豊かに改築、造園され、光源氏が伝領することになります。後に

    二条院

と呼ばれるわが家を見ながら光源氏はこんなことを思います。
  かかるところに、思ふやうならむ人を据ゑて住まば
  やとのみ嘆かしう思しわたる。
  (こういうところに理想的な人を迎えて暮らしたい
  ものだとばかり嘆かしく思い続けていらっしゃる)

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 親の定めた女性のところに婿入りするのは、世襲を是認し、階級を自分たちで設定している「貴族」にとって
は自己防衛の方便でもあったでしょうし、相手の親からも大事にされるという意味では楽でもあったでしょう。しかし光源氏は唯々諾々と旧習に従うのではなく、自由に自分の世界を築きたいと思っているようです。ただ、無力な若者にとってその願いは

    夢物語

の域にとどまり、「嘆かしう」煩悶するばかりなのです。この、風雅な家に女性を迎えることへのこだわりは「つひには願ひのごとく、紫の上、後には二条院に住みたまへるなり」(『花鳥余情』)という形で実現しますが、この時点では、その日は果てしない未来に思えたかもしれません。
 桐壺巻には光源氏の会話はひとことも記されることがありません。また彼の心情も「思ふ」「おぼす」ではなく「おぼえたまふ(心にぼんやりと思い浮かべられる)」と表現されていたのです。意思や感情をあらわにするに至らない幼さゆえでしょうか。ところが右の引用のように巻末に至ってはじめて「思しわたる」と記されるのです。実現するかどうか分からないぼんやりとした願いではあっても、いつかここに女性を迎えようという彼の

    積極的な意思

が垣間見えたところで「桐壺」巻は終わりを告げるのです。

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