河童(3) 

河童を目撃した話として佐藤垢石の「河童酒宴」のことに少し触れましたが、この随筆をもう少し詳しく申しますと、こんな内容です。
釣りのジャーナリストの草分けである垢石(このペンネームは釣り用語です)は河童についても蘊蓄の深い人です。この人は子どもの頃から(!)のんべえで、母親のいない時には父親の幸七と一緒に飲んでいたそうで、そのときに父親から河童の話を聴かされたのです。

    利根川

に鮎を釣りに行っていた幸七が、河原の萱の草むらで河童が集まって宴会をしているのを見つけたというのです。鯉、ナマズ、鮎、フナ、カジカなどを肴にして飲んでいたのですが、たまにはほかのものも食べたいと言い出した河童がいて、それじゃあ猫背の万吉(通称猫万)の買っている小馬を食べようという話になります。幸七はそれを聞いて猫万に伝え、盗まれる前に河童に酒を飲ませ、足腰の立たないようにしたところで一匹捕まえて見せ物に売ればもうかる、というアイデアを出し、猫万も賛成するのです。

    丑三つ

のころに河童が5、6匹やってきたので幸七は馬を連れて行く前に一杯やったらどうだ、と言って一斗の焼酎を与えると連中は酔っぱらうまで飲みます。暗闇の中で幸七は大声で「夜が明けた」と怒鳴り、腰を抜かした河童を捕まえてやろうと思ったのですが、その声に驚いた河童はすべて逃げてしまいました。朝になって河童のいたところを見ると、青い雲形の模様のある当時流行のオイルシルクで作った「レインコート=合羽(かっぱ)」のようなものがあったといいます。それは河童の革だったそうです。

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垢石には「狸のへそ」という小説(1952年)もあって、その中にも河童の肉の話が書かれています。上州高崎(群馬県)の獣皮問屋に河童の革を売りにきた漁師がいたので、獣皮屋の主人が「あなたは河童の肉を食べたことがあるか」と聞いたそうです。すると漁師は「いつも食べている。雌のほうがおいしい」と答えました。「それでは今度は肉を持ってきてくれ」と主人は頼んだのですが、漁師はその後姿を見せなかった、というのです。明治の初めの話として伝えているものですが、さてどこまでがほんとうなのやら。
芥川龍之介の名作

    「河童」

は精神病院の「第二十三号」と呼ばれる患者の話です。
彼はあるとき霧の深い上高地の梓川の水際で河童に出会い、それを追いかけていくうちに河童の世界にまぎれこんでしまいます。河童と一緒に暮らしているうちに、彼は人間がまじめに考えることを河童は滑稽と思うということに気づきます。また、河童の世界では雌が雄を追いかけ回しあらゆる手段でその雄を捕まえてしまうという「恋愛」をするのです。彼は医者や詩人(詩ガッパ?)やガラス会社の社長や音楽家や哲学者や学生などと交流を持ちつつ河童の世界でさまざまな体験をします。やがて人間世界に戻ると彼は事業に失敗してまた河童の世界に「戻り」たくなるのです。その後

    「早発性痴呆症」

で精神病院に入れられた彼は連日河童の訪問を受けます。その中の医者ガッパは「早発性痴呆症はあなたではなく、その診断を下した医者たちのほうだ」と言います。
そして彼は河童の裁判官が河童の世界の精神病院に入れられていることを知って、もし叶うなら見舞いにいきたい、というのです。
自殺する年の二月に書いたこの作品の中で、道徳、家族、官の権力、資本主義などへの懐疑や批判から宗教にまで話が展開していきます。河童の世界で暮らすという稀有な体験をした(と本人は言っている)「第二十三号」患者の話を通して、芥川はあらゆるもの(自分自身を含む)への嫌悪を吐露しているようです。

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