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『枕草子』と平安時代を読む(4) 

次は「かたはらいたきもの」です。「かたはらいたし」についても、渡辺実「枕草子心状語要覧」(岩波新日本古典文学大系)」から説明を引用します。
  まずいことを誰かがしていて、それを制
することが出来ない時、当人がまずいこ
とをしていると気付きそうもない時、な
どに、心を痛める困窮の気持を表わす語。
傍目(はため)にもはらはらするような見苦しさに困惑する気持ちですが、ひとことで現代語にするのはなかなか難しい語です。

かたはらいたきもの。客人(まらうと)などにあひてものいふに、奥のかたにうちとけ言(ごと)などいふを、えは制せで聞く心地。思ふ人のいたく酔ひて、同じごとしたる。

【語釈】
奥のかたに・・家人が奥で。
うちとけ言・・他人に聞かれたくないような内輪の話。
思ふ人・・愛する人、というほどの意味であろう。
同じごと・・前述の家人と同じような「うちとけ言」。酔って、聞きたくもないような内輪の話を始めるのを聴かされるときの気持ちが「かたはらいたし」。「同じこと」で繰り返し同じ話をする意味と解釈する注釈もある。

きまり悪いもの。客人などに会って話をしているときに、奥の部屋で内輪の気を許したような話をしているのを、制することもできずに聞いている気持ち。大切に思っている人(男性)がひどく酔って同じようにくだけた話をしているときの気持ち。

おそらく実家でのことでしょう。客が来ているのに、奥で内緒話のようなことを大きな声でしゃべっている声が聞こえてきて、注意もできずにきまり悪く思っているのです。今でもあり得ることだと思います。次の文については、すてきな男性がしらふの時とは違って、酔ってくだをまいて「そんなこと、ここで言わないでほしい」というような話を始めているのでしょう。さすがに注意もできずに、だからといって楽しそうに聴くわけにもいかず、きまりわるいのでしょう。単に繰り言を言っているだけなら、きまり悪いというのではないと思います。

聞きゐたりけるを知らで、人のうへいひたる。それは、何ばかりならねど、使ふ人などだにかたはらいたし。
旅立ちたる所にて、下衆(げす)どものざれゐたる。
にくげなるちごを、おのが心地のかなしきままに、うつくしみかなしがり、これが声のままに、いひたることなど語りたる。


【語釈】
聞きゐたりける・・噂になっている、その当人がじっと聞いていた。
何ばかりならねど・・噂の対象が大した人というのではないにしても。あるいは噂をしている人が大した人でないにしても。
ざれゐたる・・あるいは「されゐたる」。ふざけること。旅先で解放的な気分になってふざける様子。
にくげなるちご・・見た目に器量のよくない乳児。
おのが心地のかなしきままに・・自分の子だけに、(かわいくもないのに)かわいいと思って。
うつくしみかなしがり・・「うつくしみ」も「かなしがり」もかわいがること。無邪気なものを見てかわいく思うのが「うつくしみ」で、切ないくらいかわいく思うのが「かなしがり」。親ばかぶりを発揮して、この上なくかわいいと思うようす。
これが声のままに・・その乳児が出す声のとおりに。
いひたることなど語りたる・・乳児がこんなことを言った、などとうれしそうに人に話している様子。

本人がじっと聞いているのも知らないで、人の噂をしているの。それはどれほどの人でなくても、使用人の場合でもとても具合の悪いものだ。
旅に出た先で身分の低い従者がふざけているの。
かわいげのない乳飲み子を自分がかわいいと思うその気持ちのままに、大切にしてかわいがり、乳児の声をそっくりまねて、言っていることを話したりしているの。

よく喜劇の場面などにありますが、すぐうしろに当人がいるのに気づかず、その人のことを噂する滑稽さ。そしてそれを聞かされる人のきまり悪さを言っています。次の部分は噂をする人のことなのか、されている人のことなのか、どちらとも取れそうですが、噂をされている人が大した身分でなければ気に留めることもないようなものだが、それでもやはり気になる、という解釈をしておきます。
旅先というのはつい自由に何でもしたくなるものです。普段はおとなしくしている者でも悪ふざけをします。旅の恥はかき捨てとも言います。
次の一節は、ひどいな、と思うのです。あまりかわいくない子なのに親はかわいいと思っている、そしてその子の声まねまでしているのは、自分がいかに親ばかなのかを知らずにしている行為なので傍目に見て苦痛だというのです。しかし、わが子がかわいいのは当たり前ですから、認めてやってもいいのに、こういうことまで手厳しくはっきりと批判するのは清少納言らしいところと言えるでしょうか。

才(ざえ)ある人の前にて、才なき人の、ものおぼえ声に、人の名などいひたる。
ことによしとも覚えぬわが歌を、人に語りて、人のほめなどしたるよしいふも、かたはらいたし。


【語釈】
才・・学識。
ものおぼえ声・・わかったような口ぶり。
人の名などいひたる・・「ああ、あの人ねぇ」「誰それさんねね」などと著名な人の名をさも知り合いのように言う様子。
ことによしとも覚えぬわが歌・・格別に秀作であるとも思えないような自作の歌。
人のほめなどしたるよしいふ・・「あの人に褒められましてねぇ」などと自慢げに言う様子。

学識のある人の前で、学識のない人が、わかったような声を出して人の名などを言っているの。
特にうまいとも思えない自分の歌を人に話して、誰かに褒められたなどということを話しているのも見苦しいものだ。


少し違うかもしれませんが、例えば有名な小説家の前で、私のような無能でものを知らない人間が、「はいはい、あの作家の人ね、知っています、知っていますとも」なんて言っている姿を想像してみてください。恥ずかしいですよね。ここで清少納言は「もの覚え声」と言っていますので、声の調子が自慢げなのが、さらに傍目に悪いというのでしょう。
「こんな歌を作りましてね、大したことないのですが、歌人の○○先生に褒められたんですよ」などというのも恥ずかしい話です。
この「かたはらいたきもの」の段は、私のことを言われているような気になるところが少なくないので、けっこうこたえました(笑)。

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