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三角関係 

『源氏物語』なんて古臭いもののどこがおもしろいのか、と思う人は少なくないでしょう。しかしちょっと待っていただきたい。「古くさいって、あなた読んだことがあるのですか?」「読んだとも、高校生の時に」「いや、それは古文の授業ですよね。そうではなくて、文学として全部とは言わないまでも、3つや4つの巻は読んでそうおっしゃるのでしょうか」「そんなもん、読まなくてもわかる」。
だいたいこういう水掛け論で終わってしまうのだと思います。
多くの方は光源氏というイケメン軟弱男が、蝶が花から花へと飛び移るように女性遍歴をする物語と思っていらっしゃるのですが、実際はそんな生易しいものではないのです。
その最たるものが光源氏と藤壺女御(のち中宮)の密通だと思います。父の妻である人と密通するのです。もちろん藤壺は光源氏の実の母ではありませんが、息子が母を恋い慕うエディプスコンプレックスすら感じられます。
この密通の結果、藤壺は懐妊して皇子を産むことになります。もちろん、光源氏の父帝の子として産むのです。彼は後に春宮となり、帝位に即(つ)きます。さて『源氏物語』「紅葉賀」巻にこんな話があります。藤壺の出産が間近な時に、帝はある行事の予行演習として藤壺に舞楽などを見せてやろうと計画しました。そして彼女の目の前で光源氏が舞楽

    青海波

を舞います。鳥兜をつけて紅葉などをかざしにして太刀を着け、青海波模様の袍の片方の肩を脱いで袖を振って舞うのです。途中で舞人が詩句を詠ずる(「詠」という)ところがあって光源氏が声を出すと、それはもう迦陵頻伽(かりょうびんが。極楽浄土にいるという妙音の鳥)とまがうほどの美しさでした。その姿を観て声を聴いた藤壺は苦悶し、帝は何も知らずにほめたたえます。
これとよく似た話が古代中国前漢のころにもあります。平安時代の日本でもよく読まれたらしい『飛燕外伝』という書物にこんな話があるのです。成帝の皇后趙飛燕は舞の名手。ある時、成帝の前で歌舞が行われ、飛燕と秘密の恋愛関係にあった侍従の馮無方が笙を吹き、飛燕が舞います。強風が吹いて飛燕が飛ばされそうになると、無方はその袖を捉え、二人はひそかに恋をささやき合います。飛燕は

    「故(ふる)きを去りて新しきに就かむ」

と言いました。成帝を捨てて無方と一緒になろう、と言っているわけです。
見事な舞を舞う人、秘密の恋にある人、何も知らない夫という関係は、舞人と恋人の男性・女性の違いはありますが、さきほどの『源氏物語』の場面とよく似ています。
紫式部は飛燕の話を下敷きに「紅葉賀」巻を書いたのかもしれません。いずれにしても、まことに切実で恐ろしくさえある話です。
三角関係というと、『万葉集』の額田王、大海人皇子、天智天皇の話もよく知られます。かつて恋愛関係にあった額田王と大海人皇子ですが、今額田王は天智天皇のもとにあります。あるとき、天智天皇は蒲生野に狩に行き、額田王も大海人も同行しました。そのとき、大海人が額田王に袖を振った(相手の魂を引き寄せようとする合図)ので額田王が「あかねさす紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る」(そんなことをしたら野の番人に見つかりますよ)と詠み、大海人が「紫のにほへる妹のにくくあらば人妻ゆゑに吾が恋ひめやも」(あなたが憎ければ人妻なのに恋したりするでしょうか)と返したというのです。かなり危険な歌のようですが、実際はふざけて詠み合ったものだったようです。しかしこれも男が「袖を振り」、女がそれを見て危機感を覚えるという点では『源氏物語』に似ているとも言えそうです。
『源氏物語』はおもしろいです。

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