三谷さんに学ぶ
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三谷幸喜さんという脚本家は、脚本を本にして出版することを嫌う人です。私も「岸田賞」受賞作の『オケピ!』拝読をしただけです。岸田賞は受賞したら出版するという決まりがあって、三谷さんもやむを得ず出版に同意されたのでしょう。三谷さんは概して「あて書き」をされる方です。つまり役者さんを念頭に置いて台詞を作って行かれるのです。だから、活字の本を読んでもらっても意味がない、というお考えのようです。
しかし、三谷さんの本の秘密を知りたいものにとっては出版されないのはとても残念に思っていました。
先日、俳優の田村正和さんが亡くなりました。「阪妻(ばんつま)」こと「阪東妻三郎」のご子息で、ご令兄は高廣さん、ご令弟は亮さんでみなさん俳優さんです。さすがにご父君は存じませんが、お兄様の高廣さんはよく覚えています。もうおひとかた正和さんの二番目のお兄様がいらしたはずですが、このかたは役者にはなられませんでした。正和さんは私が子どものころからニヒルな役者さんとしてご活躍でした。
その追悼番組として
古畑任三郎
というテレビ番組が再放送されました。田村さんが出演されるということで大変人気のある番組であったことは知っていたのですが、私は本放送のころは観ていませんでした。
そして今回も、本放送で観ていないというだけの理由なら、特に観ようとは思わなかったのですが、なんとこの脚本を書かれたのが三谷幸喜さんではありませんか!
これはいいチャンス。三谷さんの脚本、それも喜劇の要素を知るのにはどうやらうってつけのようで、時間のある日には観て
いました(3作品ほど観ました)。テレビを観るだけなら三谷さんの舞台を見たって同じだろう、といわれそうですが、どっこい、今のテレビには
字幕
というのがあります。ですから、ほとんど脚本を読むような感覚で観ることができたのです。もちろん、田村正和さんの演技はおもしろかったですし、その田村さんに当て書きされた方法も学べますからよけいに楽しめました。それで感じたのは、実際にはそんなことはしないであろうこと、そんなことは言わないであろうことを三谷さんは平気で登場人物にさせ、言わせていらっしゃったことでした。不自然と言えば不自然、いかにも「ウソ」なのです。
たとえば、刑事(田村さん)が犯人ともうひとりの鉄道マンと一緒にいる場面で、その鉄道マンが心筋梗塞を起こすのです。すると犯人はすぐに駆け寄って介抱しようとするのですが、刑事は何もしません。そして犯人に「救急車を呼べ」と言われて、さらに少し会話があったあと、刑事はやっと119番に電話をかけるのです。これは絶対にあり得ないことです。刑事はこういう場合、すぐに駆け寄って状況を見て119番通報して、何らかの応急処置をするはずです。これは明らかに「ウソ」なのです。
またある人物が、自分の欲望のために人を突き飛ばすと、突き飛ばされた人が頭を打って亡くなるというシーンがありました。このできごとを終始「殺人事件」と言っていたのですが、これは殺人には該当しないのではないでしょうか。故意に人を殺害したのではありませんから、傷害致死になると思うのです。現場検証をした人たちも「これは事故だ」と言っているくらいで、意図的に人をあやめたのではないのです。
ただ、ウソを重ねるといつしかそれがウソとは聞こえなくなって、なるほどこういうことを言うかもしれない、するかもしれない、という妙な錯覚に陥ってしまうものですから、まさにマジックなのです。ああいうことは簡単に真似のできることではないと感じました。
芝居には、とくにああいう推理ものには仕込みが欠かせませんが、わかりやすい仕込みを入れておいて、その陰にほんとうに仕込みたいことを隠しておくような方法も感じました。
さすがに三谷さんと田村正和さんがタッグを組むと面白い番組になっていました。もっと観ておけばよかったと今さらながら悔いています。
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- [2021/06/27 00:00]
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コメント
藤十郎さん
不自然なウソっぽく感じられることが面白いドラマになったのですね。俳優さんの演技力もすごそうです。
神田伯山さんが最近ナレーターを勤められたリメイクの鳴門秘帖、元々田村正和さんがご出演なさったそうで、絵に描いたような美男子ぶりに驚きました。
三谷さんは文楽の「其礼成心中」の脚本もご出版されていますね。ありがたいことです。
🎵如月さん
本格推理ドラマというより、推理ドラマの形をとったセリフ劇でした。
仕込みのしかたも学べました。
其礼成心中は床本の形で読めましたね。奇抜な発想でおもしろく拝読しました。
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