芥川と女殺
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芥川龍之介は芝居も好きで、よく観に行ったばかりか劇評も書いています。東京日日新聞に書いたものを芥川全集で読むこともできます。
劇評ではないのですが、芥川の『百艸』に「有楽座の『女殺油地獄』」という文章が収められています。有楽座は日本最初の全席イス席という劇場で、有楽町駅の近くにありました(関東大震災で焼けてしまいました)。有楽座では、吉井勇の「河内屋与兵衛」も上演しています。
その文章の中で彼はどんなことを書いているのでしょうか。芥川はその芝居を見ただけでなくそのあと近松のテキストも読んだようです。そして与兵衛については「純然たる不良少年」「金箔付きの不良少年」「物騒な半狂人」などと評し、「有りとあらゆる悲劇は悉く此の與兵衛の一人の病的悖徳性(はいとくせい)から起つてゐる」「女殺油地獄の悲劇は與兵衛と云ふ例外的人格さへなかつたなら決して起らなかつたらうと云つても好い譯である」と徹底的に与兵衛の人格を問題にします。
そして「向う三軒兩隣」には起りさうもない悲劇」で、「我我
ノオマルな人間
が自ら省みて戦慄すべき悲劇だとはちと考へられない」と、必ずしもいい評価をしていないように思われます。
とはいえ、彼は近松の技量をけなしているわけではなく、「テクニイクは大の字のつく戯曲家たるに恥ぢない程、如何にも手に入つたものである」といっています。
ただ、その結果、「不良少年たる河内屋與兵衛の性格が餘りに活潑潑地に躍動してゐるものだから、自分の如きものには最後の與兵衛の悔恨でどの程度まで本當だか聊か判然しない憾がある」と戸惑っているようです。
芥川は与兵衛のお吉殺しの動機も金のためというのは与兵衛の口から出まかせであって「實はあの油屋の細君を口説きそくなつた
一時の腹立ち紛れ
か何かだったかも知れない」と推測しています。
芥川にとってはなかなかショッキングな芝居見物で、あれこれ考えたのだろうな、と想像が膨らみます。
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- [2021/10/21 00:00]
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