萩、藤袴
- 日々牛歩
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絵巻物で秋の庭を描くことがしばしばあります。『源氏物語絵巻』では「御法」巻は紫の上が亡くなる直前の場面ですが、光源氏、明石中宮(紫の上の養女)に見守られる紫の上の姿を向かって右奥に、そして画面左側には広々と庭で揺れる秋の草が描かれていて侘しさを募らせます。同じ絵巻の「宿木・三」では琵琶を弾く匂宮と妻の中の君が画面右側に描かれ、左側はやはり広く庭の秋草が描かれるのです。平安時代になると『万葉集』の時代とは違って「秋は寂しい季節」でした。「秋」に「飽き」を掛けて、
人の心の移ろいやすさ
を描くことも多かったのです。そして、庭に植えられた萩や藤袴、すすきなどがわびしさを募らせるように描かれました。
その萩は『万葉集』の時代からとても愛された草でした。
夕されば野辺の秋萩うら若み
露にぞ枯るる秋待ちがてに
(万葉集・巻八・人麻呂)
など、春の代表的な花である梅よりも多く、140首以上詠まれているのです。
平安時代になると前述のように秋は哀しい季節と考えられましたから、虫、雁、鹿などの鳴き声がわびしさを感じさせるものとして詠まれましたが、秋草もまた同じように寂しさを漂わせます。
鹿と一緒に詠まれる植物としては紅葉も有名ですが、萩もよく詠まれたのです。
秋萩の花咲きにけり
高砂の尾上の鹿は今や鳴くらむ
(古今和歌集・秋上・藤原敏行)
などがそれです。
鳴きわたる雁の涙や落ちつらむ
もの思ふ宿の萩の上の露
(古今和歌集・秋上・よみびと知らず)
秋萩も色づきぬればきりぎりす
わが寝ぬごとや夜はかなしき
(古今和歌集・秋上・よみびと知らず)
も雁や虫の声とともに秋のわびしさを感じさせます。
藤袴は香りが歌に詠まれます。また「袴」という言葉から野に脱ぎ置かれた袴という言葉遊びのような用い方をします。そしてそれらを組み合わせて、
袴にたきしめた香
が漂うとも詠まれるのです。
なに人か来て脱ぎかけし藤袴
来る秋ごとに野辺を匂はす
(古今和歌集・秋上・藤原敏行)
宿りせし人のかたみか藤袴
忘られがたき香に匂ひつつ
(古今和歌集・秋上・紀貫之)
主知らぬ香こそ匂へれ秋の野に
誰(た)が脱ぎ掛けし藤袴ぞも
(古今和歌集・秋上・素性法師)
いずれも香りと袴を詠んでいます。
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- [2021/11/15 00:00]
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