女郎花、撫子
- 日々牛歩
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「女」「子」とい文字が入っていますから、なんとなくなまめかしい感じがする秋の草です。「をみなへし」という名の意味は分かったようでわからないものです。「をみな」は現代語の「女」に通ずる言葉ですから女性一般を表すように思えますが、元をたどれば「美女」というニュアンスが強かったのです。『万葉集』はすべて漢字(万葉仮名)で書かれていますが、「をみなへし」の「をみな」については「佳人」「美人」などの字が当てられています。平安時代の辞書『新撰字鏡』には「嬢」の字について「美女也」と言ったうえでその読み方を「乎美奈(をみな)」と注記しています。問題は「へし」なのです。「圧し」「押し」の字が当てられる「へす」という言葉があり、「をみな」と合わせると「美女を圧倒する」という意味になるのかもしれません。『万葉集』の「をみなへし」を「姫押」と書いている例があり、「美しい人を圧倒するほどすてきな花」の意味かと考えられるのです。ですから、和歌に女郎花を詠み込む場合は
「美女」のニュアンス
潜んでいる場合が少なくありません。
名にめでて折れるばかりぞ女郎花
我おちにきと人に語るな
(『古今和歌集』秋上・遍照)
その名がすばらしいと思うから折っただけだ、僧である私が堕落したなどと人には言うなよ、女郎花、ということでしょう。僧ですから女性に惑わされるのは破戒になり、あるまじきことです。それを面白く詠んだのだと思います。
誰(た)が秋にあらぬものゆゑ女郎花
なぞ色に出でてまだきうつろふ
(『古今和歌集』秋上・紀貫之)
これは誰にとっての秋というわけでもないのに、女郎花はどうしてそんなにはっきりとあっというまに色あせてしまうのか、という意味なのです。しかし、何となく女性が心変わりをしたことを思わせる歌になっています。
「なでしこ」は『枕草子』に
「草の花はなでしこ。
唐のはさらなり、大和のもいとめでたし」とあるように、清少納言は草の花の中では一番だと言っています。その名も「撫でた子」つまり「かわいがった子」で、たしかにあの可憐な花を見るとその名にもうなずけます。
『源氏物語』では「帚木」巻に印象的な場面があります。光源氏のライバルの頭中将がのちに「夕顔」と呼ばれる女性と親密になったのですがあまり熱心には通いません。夕顔は彼との間にできた幼い娘をあわれんで
山がつの垣ほあるとも折々に
あはれはかけよ撫子の露
と詠みます。こんなみすぼらしいところに咲いていても、折々にかわいがってやってください、撫子の露を、という歌で、頭中将に「私はともかく、娘をかわいがってほしい」と言っているのです。ここで「山がつの垣ほ」とあるのは、
あな恋し今もみてしか山がつの
垣ほに咲ける大和撫子
(『古今和歌集』恋四・よみびと知らず)
によるのです。この『古今和歌集』の歌はとても有名で、しばしば本歌取りされたのです。『源氏物語』では幼い子のことを言っているのですが、男子ではなく娘であるように、やはりこの花は女性的なものなのです。
「女郎花」も「撫子」も、愛らしい女性をイメージさせる草花だったようです。
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- [2021/11/16 00:00]
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