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弱い者を笑い飛ばす世の中(2) 

昨日書いたようなことを考えていてもうひとつ気になるのが、笑いのプロという人たちも権力にすり寄っているように思える場合があることなのです。
中世ヨーロッパには「道化」という人たちがいました。ご主人を楽しませるのを主な仕事としましたが、原則として何を言ってもかまわないとされたので、ご主人に対して批判的なこともあからさまに言うことがあったのです。彼らはおろか者扱いされたがゆえに常人とは異なる神聖さすら感じさせる存在だったようです。シェークスピアの『十二夜』には、伯爵家の道化であるフェステについて、主人公ヴァイオラが「利口だからこそ阿呆のまねができる」「阿呆をつとめるにはそれだけの知恵がいる」(小田島雄志の訳による)と言っています。道化というのは必ずしもほんとうに愚かな人であったわけではないのですね。そもそもフェステの弁の立つことと言ったら半端ではありません。そのフェステがおもしろいことを言っています。「知恵の神様よ、どうかおれにりっぱな阿呆をやらせてくれ! おまえさんを自分のものだとうぬぼれている利口者が実は阿呆だったなんて例はいくらでもある。だからおまえさんと関係ないはずのおれが、けっこう利口者で通るかもしれん」。自分は「阿呆である」という前提に立って、知恵があると思い込んでいる者が実は阿呆だったということが世の中にごまんとあるというのです。早い話が、人間はみな愚かなのです。
道化の言いたい放題は、さすがに度が過ぎると処罰の対象にもなったのでしょうが、権力者が身近にこういう人を置いていたのがおもしろいことだと思います。まじめくさって批判されるとプライドを傷つけられたと思って頭にくるでしょうが、批判するのが道化であれば

    つい気に留める

という効果もあったのではないでしょうか。今でも、子どもの言うことにハッとさせられる、という場合があります。誰の話も聞かないような傲慢な人間が、幼い子どもの言葉には弱い、ということはありうるでしょう。少なくとも道化は「権力者にすり寄る存在」というのとは違うと思います。
メディアも同じようなことをしがちで、権力者を持ち上げるような番組を作る傾向にあるように思えてなりません。正月に大阪の知事と市長をテレビに出して話をさせる番組を作った局があったと新聞で読みました。両者ともに同じ政党の人で、しかも言いたい放題を得意にしている人たちです。これは

    偏向的

ではないかというので局自身が問題にしていたようです。正月の関西のテレビ局の座談会であれば、各府県の代表者を招いて話をするなら問題ないでしょう。ところが、放送エリアは関西一円なのに、さも大阪だけが関西であるかのように扱って、その政治家たちをスター扱いしている姿勢はおかしいとしかいいようがありません。もっともディレクターの気持ちはわからないでもないのです。地元でしか知られていない実務派の知事さんだっています。正月の華やかな雰囲気の中では悪い意味で浮いてしまうかもしれません。しかし、民放だからといって「視聴率さえ取れればOK」というのではメディアの責任を果たしたことにはならないと思います。
最近亡くなった石原慎太郎氏も人をバカにする人でした。この人の戦法として、若手の記者をバカにする(あえて言うなら鼻で笑う)ことがありました。そうやってメディアを委縮させればこっちのもの、ということでしょう。その結果、多くのメディアは彼のもの言いを「石原節」と言って甘受していたと思います。石原氏は作家としても一流とは言えず、おそらく次の時代になれば彼の作品は消えていくでしょう。また政治家としても夜郎自大が過ぎたのではないかと思います。
強い者が弱い者を笑う。そのとき弱者がどんな気持ちでいるのか、強者にはわからないでしょう。

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コメント

吉本新喜劇と松竹新喜劇。

3年前に安倍首相が吉本新喜劇の舞台に飛び入り出演したというニュースを聞き「ここまで吉本は堕落したのか!」と思いました。もちろん全員ではありませんが、吉本新喜劇には社会的に弱い立場の人たちを嗤う風潮があることを前々から感じていました。弱い立場を嗤い、そして自分たちは強い立場にいたいと。漫才のダウンタウンなどもそのようです。
一方松竹新喜劇は、弱い立場の人たちに寄り添ったホロッとする人情劇を上演します。亡くなられた二代目渋谷天外さんは舘直志(たてなおし)の名前で数々の人情喜劇を作り、いまでも劇団の財産になっています。
わたしは松竹新喜劇を応援します。

🎵やたけたの熊さん

私は幸いそわ新喜劇は観ませんでしたが、あの人、セリフは覚えられたのでしょうか。客席の一番前にディレクターがカンペを持って座っていたりして。
それにしてもつまらないことをするのですね。客席から「アベ辞めろー」と怒鳴ったら連行されたかもしれませんね。
松竹はチケット代が高くてテレビしか観たことがないのです。今やそんな舞台中継はなくなりましたね。

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