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迎駕籠死期茜染(10) 

小梅は不足していた三十両の金を自らの身体を売ることで用意し、由兵衛は小梅と長吉の姉弟に救われる結果となるのです。あとは最後まで激しいほどの愁嘆場です。そして、冒頭でこの家に来ていた由兵衛の伯母も登場し、五段続きなら三段目にあたる悲劇的な段が幕を下ろすのです。

小梅は「長吉はもう死んでしまいましたか。息があるなら会わせてください」と言って泣き出します。由兵衛は「刀を取り返したら弟の仇だから、存分にしてくれ」と言います。小梅は「あなたにとってご主人なら、私にとってもご主人。その大事に及んだ今夜ですから、私だってほしいと思った七十両を取るのは無理もないと思います。でも、殺してまでとは・・。せめて死に目に会いたいのです」。そういって小梅は長吉に駆け寄り、「さぞ憎かろうが、よく聞いておくれ。先ほど話した刀が他人に渡るとお国のご主人ご一家がどうなられるか。お前が死んでこの金が御用に立つと多くの命が助かる。仏も及ばぬ慈悲なのですよ。そう思ってお念仏を申しておくれ」と勧め嘆くと、長吉が目を開き、「私は切られなくても死なねばならないわけがあるのです。姉さんが瘦せたのも金ゆえと聞いて、何とかしたいと思って、この金は盗んできたのです。すぐに差し上げようと思ったのですが、親方のものは粗末にするなとご意見なさったので差し上げますといえなかったのです。姉さんに孝行したくても丁稚のうちは自由が利かず、盗んでなりとも苦難を助けて、そのあとすぐに小橋(おばせ)の

    野中の井戸

に身を投げようと死に場所まで決めてきたのです」と語ります。小梅は身も世もなく「両親に別れてから私もお前も苦労したが、あとこれくらいで年季が明ける、歳はいくつになったと数えていたのに、この姉の夫がお前を殺すなんて」と泣き口説きます。由兵衛も「こうなることは因縁だ。私もすぐに縄目の恥を受けることになろう。すぐにお前の跡を追って、礼は冥途でゆっくりとするぞ」と詫びます。長吉は由兵衛に「姉のことを頼みます」と言って懐の金を投げだして息絶えるのです。
由兵衛が「長吉の亡骸を隠さねばならない」というと、小梅もしかたなく「それなら、自分の死に場所を見てきたというのですから、野中の井戸に葬ってください。私も野辺送りして島の内の木幡屋に三年の憂き勤めに出ます」と答えました。そして押入れから「けっこはっこ(結構八講。とてもすばらしいこと)」の下帷子を取り出して「この子に着せようと思っていたのに、経帷子になってしまうとは」と泣きながら着せてやります。由兵衛も渋紙を出して包んでやり、小梅とともになおも嘆いています。小梅は、こうしてとやかく歎いていてもし夜が明けたら長吉の心が無足(無駄)になるから、と言いつつ、もつれ足のまま野辺送りに出ようとします。そこに家の奥から

    「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」

という声が聞こえてきます。小梅が「伯母様がおいででした」というので由兵衛が立ち寄ると伯母が「さっきからここですべて話は聞きました。今夜のことは武士の奉公をしたことになる。あなたがた夫婦の心は格別です。また、長吉とやらの志は、姉を思い、その夫を思い、その主人を思うもの。このうえは由兵衛よ、江戸へでも長崎へでも行って元気でいておくれ。野江や飛田(どちらも仕置き場=刑場があった)に送られて逆さまな回向をさせてくれるな」と言って泣き出します。死なねばならない由兵衛、勤めに出る小梅、逆さまの回向をすることになると知らずにいる老いた伯母。それぞれの思いを抱きながら阿弥陀仏を頼んでいます。

『迎駕籠死期茜染』は、このあと下の巻「芝居側」に続きます。

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