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浮ついたことば(3) 

石作皇子の甘言はとどまるところを知りません。

「かぐや姫様、あなたは私にとって真実心を捧げたいと思う唯一の方。どうかこの可憐な花を、私があなたを思う真心を受け取ってはいただけないでしょうか? 私は幼い頃から草花が好きでした。それも、道端や野辺に咲く名もない花に心ひかれてしまうのです。そしていつも思うのです。この野辺に咲く花のように生きることができたならと。姫、私と共に参りましょう。ここではないどこかへ。堅苦しい都など抜け出して、共に参りましょう。花咲き乱れ、鳥が歌い、魚が躍る緑豊かな地へ。ここではないどこかへ。ただ己の心のままに笑い、歌い、そして眠りましょう。朝な夕なの営みを喜びとし、四季の巡りを糧にして、共に美しい物語を紡ぎ出しましょう。さあ行きましょう、私と。ここではないどこかへ! 花咲き乱れ、鳥が歌い、魚が躍る緑豊かな地へ参りましょう。ここではないどこかへ、さあ!」

この長ぜりふの間に、かぐや姫側でいくらかの動きがあります。「私があなたを思う真心を受け取ってはいただけないでしょうか?」と言われた時、かぐや姫は考え込んでいます。「この野辺に咲く花のように生きることができたならと」という言葉に対しては、かぐや姫は花を手にして涙を落とします。ところが「共に美しい物語を紡ぎ出しましょう」と言われたとき、かぐや姫の後ろから、媼が肩に触れるのです。何かの合図をしているようです。
石作皇子の心は昂り(あるいは昂った演技をし)、「ここではないどこか」に行こうというヨーロッパ言語の恋愛詩を翻訳したようなロマンティックな表現をします。しかし、「真心」「ここではない場所」「花が咲き乱れ、鳥が歌い、魚が躍る緑豊かなところ」・・。こう言われた時、かぐや姫の心の中には石作皇子ではなく、

    まったく別の人物

が思い浮かべられていたかもしれません。かつて野に遊んだかぐや姫にとってかけがえのなかった捨丸・・。石作皇子の浮ついた言葉は、少しずれたところでかぐや姫の心を強く震わせたのではないでしょうか。
このエピソードには「オチ」があります。
石作は次第に御簾(みす。この奥にかぐや姫がいる)に近づき、ついにその御簾に手を掛けます。翁はどうなることかとかなり狼狽しています。そして「ここではないどこかへ、さあ!」とおそらくこれまでの彼なら多くの女性たちを篭絡してきたであろうことばを投げかけたあと、とうとう御簾を持ち上げたのです。ところが、そこにいたのは、先ほどの花を持って

    鬼の形相

で座っている石上の正妻でした。彼は「うわ!」とのけぞり、その拍子に頭を打ち、烏帽子は脱げ、御簾が外れて彼の身体に覆いかぶさってきます。当時の貴族は髷を結い上げて、それを烏帽子に結び付けましたので、そう簡単には脱げないのですが、このあたりは映画の「うそ」として許されるだろうと思います。
当時の男性は、種類はさまざまですが貴族から庶民まで烏帽子を付けるのがあたりまえで、脱ぐのは寝る時くらい。それだけに烏帽子が脱げるのはとても恥ずかしいことでした。正妻は「“ここではないどこか”ですか? ぜひ私も一度連れていっていただきたいものですわ」と皮肉を言い、石上は平伏して「ごめんなさい、許してください。堪忍してください!」とあやまります。正妻はさらに「“一輪の野の花”のように、あなたに摘まれ、捨てられ、悲しみのあまり髪を下ろして仏門にお入りになった姫君が何人いらっしゃることか」と暴露してその陰でかぐや姫は慟哭するのです。

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