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月に帰るかぐや姫(2) 

八月十五夜になると、翁は無駄な抵抗をします。地上の武力で月の世界の人に勝てるはずがありません。月の王は天人というよりは如来のように見えました。菩薩なら装飾品も身に着けますが、如来は薄衣だけをまといます。これは多くの仏像を見てもわかることです。しかし天の世界とて迷いの世界ですから、私はかなり異様な描き方だと思いました。如来が雲に乗ってくるというと

    来迎

のようにも見え、かぐや姫の「メタファーとしての『死』」すら感じさせられたのです。高畑監督の意図は那辺にあったのでしょうか。
天人の力は圧倒的です。武士たちが放った矢は花と化してはらはらと落ちていきます。さらに武士たちは意識を失っていきます。「無力」ということを具象化した姿がそこにあるのです。
小さな飛天が王の指示を受けて邸に入ると格子や妻戸が自然に開き、塗籠に潜んでいたのであろうかぐや姫は夢遊病者のように外に出て、釣殿からふわりと雲に乗ります。天人は穢れた地上には降りません。かぐや姫が天人から渡された羽衣を手にしたとき、女童を含む子どもたちの声が聞こえてきます。「まわれ、まわれ、まわれよ」とわらべ歌を歌っています。するとかぐや姫の手からするりと羽衣が落ちます。その歌はやがて「せんぐり命がよみがえる」と進みます。「せんぐり」は「次々に」「順繰りに」というほど意味です。よけいなことですが、以前、初代桂春団治の「黄金の大黒」を聞いた時に、春団治師は一枚しかない羽織を順に着ることを「せんぐりせんぐり」とおっしゃっていました。
かぐや姫は月に帰る(地上の人としては死ぬ)のですが、その命はやがてよみがえるものだというのでしょうか。
かぐや姫は王に向かって「待ってください」と願います。そして雲の端にいる翁と媼の方を振り向き、くしゃくしゃに顔を崩して「かかさま! ととさま!」と抱きつきます。羽衣を持って近づいたかぐや姫を急かすように天人が言います。「清らかな月の都へお戻りになれば、そのように心ざわめくこともなく、この地の穢れもぬぐい去れましょう」と。かぐや姫は即座に天人を咎めるように言い放ちます。

    「穢れてなんかいないわ!」

と。この地上波穢れた場所だというのは仏教の常識的な考えであることは以前も書きました。しかしかぐや姫はそれを明確に否定したのです。観客に訴えます。この地上は美しいところなのだ、と。「喜びも悲しみも、この地に生きるものは、みんな彩りに満ちて、鳥、虫、けもの、草、木、花。人の情けを・・」ここまで言ったところで天人が羽衣を着せてしまいます。もちろんこのあとには、待っていると言ってくださるならきっと帰ってきましょう、という言葉が続くのです。
無表情になったかぐや姫は月に向かうのですが、途中一度涙を浮かべて地上を振り返ることがあります。あのとき、彼女は「まわれ、めぐれ、めぐれよ」の歌を思い浮かべたのでしょうか。
やがて、一行は月に溶け込むように消えていきます。後には月が見えるだけなのですが、高畑監督はここで月に赤ん坊を浮かびあがらせてラストシーンをしました。あの赤ん坊は何なのでしょうか。西村義明さんによれば月が出ているだけでは画面が映えず、映画が終われない。それで高畑さんはずいぶん悩まれたようです。西村さんは赤ん坊がこちらを向くことについては「高畑さん自身もわからない部分があると思う」ともおっしゃっていました。観客に何かを問いかけたい。しかしそれが何なのかは誰もわからず、観客一人一人が考えればいいのでしょう。
もしあの場面で成人したかぐや姫がこちらを向いていたらそれはやはり変だと思います。大人になったかぐや姫は羽衣を着せられて地上のことを忘れてしまったのです。しかし、彼女の心の深奥に潜む「赤ん坊の心」は月からこちらを見ている。またいつか、彼女以外の人がこちらに来るかもしれない。地上というのはそれほどにすばらしいところなのだ、命が繰り返しよみがえるにふさわしい場所なのだ、だから、赤ん坊はその美しい地上を見ている。そこは決して争いや殺戮のあるところであってはならないのです。
「せんぐり命がよみがえる」・・・。

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コメント

名作とは、永遠の謎なりけり。

@・・羽衣を着せて・・・・
待っていると言ってくださるならきっと帰ってきましょう

ここ、このクライマックスの厳かさ。
何となく怖くて、でも美しく

何をどうしたら、姫は月に帰らなくて済んだのだろう?と、
何度読んでも、後悔と申し訳なさで心が一杯になります (誰を基準で読んでいるのかは問わないで下さいませ)

あの場面をスラスラと読ませてくれたマンボウ先生も凄いですが。

康成先生のラスト場面は、残される人間に重たい宿題を課しているかのようで、何処かツラい・・

この、ものがたりが諭しているのは誰に問いかけているのか?
男性に向けて、フラフラと遊び歩いて行けると思ったら、大間違いよ。
と言いたいのか?
チヤホヤされる美女も、結局は何も手に入れられず孤独に、人が訪れられない場所に帰還するしかない。
と、言いたいのか・・
どういう年齢層に向けて紡がれたのか、不思議な物語です。

※この感想を読書感想文に書いたり、ドドに問いかけなかった自分を褒めたい‥。
おそらく問題視されて、即、家族会議だろう。。。

  • [2023/08/06 11:27]
  • URL |
  • 月を愛でたい・押しego
  • [ 編集 ]
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🎵押し得子さん

この映画、語りが宮本信子さんですね。
つまり媼役と兼ねていらっしゃるのですね。
原作は翁とかぐや姫の物語で、媼はあまり顔を出しません。
映画では媼が重要な役割で、舞台回しも媼。
ここにも意味を感じます。

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