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醜女(2) 

絵巻物を見ると、貴族女性は「引目鉤鼻」というよく似た顔に描かれます。『源氏物語絵巻』などでおなじみの顔です。しかし庶民を描いた絵巻物はわりあいに個性があって、生き生きとした感じが伝わります。『信貴山縁起絵巻』の大半の人物などはその典型です。ただしそこで彼女たちは特に「醜女」として描かれるのではなく、ごく普通の「おばちゃん」「おねえちゃん」問う感じです。『病草紙(やまひのさうし)』には体重が150㎏は下らないのではないかと思われる女性が描かれています。「病人」を扱った絵なのですが、この人は肥満で苦しむ(高利貸しで、贅沢ばかりしている)女性なのです。彼女もまた「醜女」として描かれているわけではありません。
では真正面から(というのも変ですが)「醜女」を描いた絵はないのかというと、そうではないのです。

    『男衾三郎絵巻』

に描かれる女性がまさにそれだと思います。タイトルは「をぶすまさぶらうゑまき」と読めますが、『男衾三郎絵詞(ゑことば)』とも言われます。
この女性については、絵巻の詞書に「たけ(丈)は七尺はかり」「かみはちヽみあかりて(髪はちぢみ上がりて)」「顔には鼻よりほか又見ゆるものなし」「へ文字口なるくちつき」と記されています。背丈が七尺もあり、髪が縮れていて、鼻が大きすぎて、口がへの字に曲がっているというのです。そして絵にはたしかに髪がごわごわと縮れていて、鼻が天狗のように高くて、への字口をした女性が描かれています。
「尺」の長さは明治時代に定まるまで必ずしも明確ではありませんが、仮に一尺25㎝とすると175㎝、30㎝とすると彼女は2mあまりの身長ということになります。2mはともかく、175cmとしても相当な長身です。
平安王朝的な美としては、髪はまっすぐで艶があって長くなければなりません。坂東の鄙の人らしくまったく対照的な女性なのでしょうね。
この絵巻物は鎌倉時代のもので、吉見二郎と男衾三郎という武士の兄弟を描いています。兄の二郎は都会風の色男で、都の女性を妻としてかわいい娘まで授かります。弟の三郎は、美人の妻を持つと

    長生きできない

というので坂東でも有名な醜女を妻としており、その子どもたちも母に似て醜い容貌なのです。この妻というのが前述の長身、縮れ毛、への字口の女性で、彼女によく似た娘とともに実際に描かれています。このあと、兄の二郎が山賊に襲われて亡くなったことで、その美しい妻や娘が哀れにも三郎の下女として使われるという悲劇的な運命が描かれるのですが、結末はよくわからないのです。おそらく二郎の妻と娘が何らかの形で救われ、幸福になるのだろうと想像されます。
この『男衾三郎絵巻』の「醜女」は、醜いだけでなく、七尺という大柄なこともあって「いかつい」イメージも持っていると思います。
「醜女」という、日常的にはあまり使いたくない言葉は、狂言、文楽、歌舞伎がある限り生き延びることでしょう。

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