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さようなら国立劇場 

東京三宅坂にある国立劇場は大劇場、小劇場そして演芸場が隣接しています。奈良の正倉院を模してデザインされた校倉造風の外観を持ち、シックな雰囲気があります。東が皇居、南隣に最高裁判所、さらにその南に国立国会図書館、国会議事堂。大阪の国立文楽劇場が怪しげな雰囲気のホテル街に隣接している(笑)のとはかなり違います。
国立劇場の設置は明治以来の懸案でしたが、戦争もあって実現せず、戦後もなかなか予算がつかず、やっと1955年になって文化財保護委員会が伝統芸能の施設としての基本的な構想を答申しました。国立劇場は伝統的な芸能を保護上演する責務があるので、けっして金もうけの手段ではないのです。
そして1966年に開場して57年。このたびこの初代国立劇場は閉場となって建て替えられるそうです。ただ、入札がうまくいかずにまだ業者が決まらないとか何とか言っていましたが、大丈夫なのでしょうか。この建て替えについては反対意見もかなり聞きました。本来多目的施設ではなく、伝統的な芸能の劇場ですから、形は決まっているようなもので、しっかりしたものを建ててしまえば100年以上だって使えるはずです。50年だけの施設ではかえって無駄が多いのではないかと私も感じます。この建て替えはもう決まっているようですが、200年劇場くらいのつもりで建ててもらったらどうかと思います。
さて、私はどういうものか、ついに大劇場に入ることはなく終わってしまいました。ここで歌舞伎を観たことがないのです。国立だけにチケットは安いですからもっと行ってもよさそうだったのに、我ながら不思議でさえあります。演芸場は演芸会も行きましたし、文楽の素浄瑠璃がおこなわれた時にも足を運んでいます。演芸場は国立劇場より新しいのに、ついでに(?)建て替えになるのですね。お金の使い方、間違ってない? 小劇場は文楽の東京公演の本拠地でしたのでもちろん何度も行っています。客席の数が出語り床設置時560人という適正な規模の劇場で、文楽の人は大阪の国立文楽劇場(出語り床設置時753人)よりやりやすいという人が多かったように思います。特に太夫さんは文楽劇場ができたとき「ここは

    太夫殺し

の劇場や」(四代目竹本津太夫)とまで言われるほどがらんとして広すぎると感じていらしたようです。文楽劇場がすばらしいという声は、私個人は太夫さんから聞いたことがありません。
国立劇場にはいろいろ思い出があります。たとえば、このブログを通して知り合った多くの友人たちと出会うことができました。幕間には開演のベルが恨めしいほど話が弾んだものでした。『敵討襤褸錦』を観たのは国立劇場だけでしたし、文楽劇場でも観てはいましたが『神霊矢口渡』『勢州阿漕浦』などの珍しい演目も上演してくれました。時代物の五段目も大阪では出ませんが、こちらでは時々観ることができました。時には『狐と笛吹き』『鰯売恋曳網』のような現代作品ですべった(笑)こともありました(『鰯売』は歌舞伎のものでしょう)が、いろいろ試そうという気持ちは必ずしも悪いとは思いません。
国立劇場の外で信号待ちをしていた時に簔助師匠から「おはようさん」と声を掛けられてびっくりしたことはこのブログ(2021年4月20日)にも書いたことがあります。
別の用事で楽屋にお邪魔しているときに、稽古を終えられたらしい

    八代目豊竹嶋太夫師匠

とばったりお会いして、初めてお話ししたのも国立劇場でした。実はたまたまお伝えしたいことがあってその少し前に師匠にお手紙を差し上げていたので、すぐにわかってくださいました。これ以後、嶋師匠はほんとうに親しくしてくださいましたので、いいきっかけになりました。仕事で竹本緑太夫さんにインタビューしたこともあり、ちょっと苦手だった(笑)野澤錦弥(現錦糸)さんと長い時間お話ししたのも国立の楽屋食堂でした。
1989年5月には四代目竹本越路太夫師匠が最後の公演をなさって、公演後に舞台に出て挨拶をなさったこともありました。
一時は公演ごとに満席になって、なかなかチケットが取れないことも少なくありませんでした。最近は空席が目立つ日もあるようで、関東での文楽人気もいくらか落ちてきているのか、不安があります。
思いつくままに国立劇場のことをあれこれ書きましたが、今後の文楽東京公演は当面、東京都足立区の「文化芸術劇場(シアター1010)」でおこなわれるそうです(「1010」は「千住」のこと)が、私はもう行くことはないだろうと思います。新しい国立劇場は2029年秋にできる予定だそうです(ほんとうにできるんでしょうね・・?)が、そこまで生きている元気もなく(笑)、これまた縁がないでしょう。
さようなら、国立劇場。

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コメント

国立劇場について色々お書きくださいまして、ありがとうございます。小劇場と長いお付き合いのある藤十郎さんのお話をうかがって、ますます、今回の閉場が惜しまれてなりません。
私は別々の日に、第三部、第一部と行ってまいりましたが、いずれも八割超のお客の入りという印象です。
菅原伝授手習鑑の三段と天拝山は素晴らしかったです。見終わったあとに、よろよろして、しばらく炎天下、散歩をしてしまいました。
発売中も『文楽名鑑2023』も、本当に楽しく拝読しつつ、初心者なので、配役表と照らし合わせての勉強のもってこいです。暗記用の赤いプラスチックシートまでついています。

🎵おみつさん

なにしろ関西におりますので、国立劇場は文楽の公演のときだけ。年に4回が限度でしたから、あまり書く資格はないのです。でも、個人としてはたった一度行った場所でも思い出がありますので、それくらいの軽い気持ちで書きました。
一番凄まじかった公演は、1998年12月の『忠臣蔵』「山科閑居」で、咲太夫・清介の壮絶なまでの語りでした。終わったあとは呆然として、友人たちと忘年会をしたのですが、「こくりつあが大変なことになっている」という意味のことを言った記憶があります。
そのうちに、「以前の国立劇場はね」という日が来ますね。

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