光からの逃亡~曾根崎心中(1)
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今月29日(22:25~0:40)にNHK教育テレビで
芸術劇場 -文楽“曽根崎心中”/吉田玉男の芸と人-
の放送があります。
公演は昨年11月23日に国立文楽劇場で上演された勘十郎(お初)・玉女(徳兵衛)・簑助(九平次)のもの。そのあと「吉田玉男・その芸と人となりを振返る」があります。
文楽の演目の中で、人気ナンバー1~3に常時位置しているのがこの演目です。
原作が名作、わかりやすい、そしてなんといっても時間が短い(笑)。
忠臣蔵を2時間半でやっちゃうの劇団もすばらしいですけどね。
先日昭和50年代の朝日座のプログラムを見ていたのですが、たまたまアンケート結果が出ていました。
この時の「見たい演目」の第一位はやはり
曽根崎心中
でした。
原作は冒頭に「観音廻り」があり、その結果として生玉でお初が休憩しているところにつながるわけですね。
脚色の野澤松之輔がこれをばっさり捨ててしまったのは結果的にコンパクトさを導き、前述の「時間が短い」につながるわけです。
そのあともあれよあれよというまに話が進み、事件の発端から翌日未明の心中までを約90分で見せてしまいます。
これには賛否あり、特に近松研究者の方々からはあまり評判がよくないのですが、私はこれはこれでひとつのあり方だと思っています。
↑応援よろしく!
ところで、曽根崎心中の徳兵衛は
編笠をかぶって
登場します。生玉、天満屋、道行のすべての場面で。言い換えると、顔を隠した状態です。
「生玉」では、「徳兵衛編笠脱ぎさつて」というところで始めて顔を見せます。そしてお初と語らい、九平次と喧嘩して、また編笠で顔を隠して「とぼとぼとあてども」なく去っていくのです。
「天満屋」では当然顔は見せられませんから編笠で隠して登場。そのあとお初の内掛けの中に隠れ、縁の下に隠れ、彼は闇の中に居続けます。
そして縁の下を出た時は「行灯消えて真の闇」の中。
お初と手に手を取って逃げようとすると後で下女が火打石で灯をつけようとしています。その光から逃げるようにまた外の闇の中へ。
「道行」では梅田橋を渡るまで編笠で顔を隠しています。そして橋で脱ぎます。すなわち、堂島新地から抜け出すと同時に編笠を脱ぐのです。あとはもう、真っ暗な中を歩いていきます。
こうしてみると、徳兵衛は生玉で顔を見せたあとはすべて
光から隠れている
ことになります。
鷲谷樗風さんがこんな演出をされたのでしょうか。
それにしても、編笠に深い意味を持たせられたのか、そうでもないのか、それは知りません。しかし、結果的に徳兵衛はあの恥辱を受けた夕暮れの生玉のあとはずっと闇(それはあるいは「この世の外」なのか)でしか生きていないわけです。
あの喧嘩のあとすでに彼はこの世から去っていたと言えるかもしれません。
火打ちの石の火の命の末こそ
で終わる「天満屋」ですが、あれは光からの逃亡だったのでしょうか。
- [2008/02/26 00:00]
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コメント
同情
徳兵衛は「光から逃れ」ていたんですね。いままで気がつきませんでした。
きまじめな徳兵衛は、プライドを傷つけられて、光から逃れざるを得なかったんですね。
きまじめな徳兵衛に同情してしまいます。
ついかっとなって封印を切ってしまう忠兵衛、自宅でうじうじすねる治兵衛とは、だいぶ違います。
残された親や、奥さん子供には同情しますが、忠兵衛、治兵衛本人には同情できませんよね。と言っても女におぼれる気持ちは分かりますが。
えっ、お前も治兵衛かって?いえいえ、わたしは違いますよ、違いますよ、たぶん・・・。
♪やたけたの熊さん
深読み、誤読といわれることを覚悟でいろいろ言ってみようと思って書きました。
本当のところはわかりませんが、どうもあの編笠が気になって仕方がないのです。
熊さんは愛妻家だというもっぱらの噂ですが、それでも治兵衛のような一面を自覚されてるんですねぇ。
まぁ、私なんぞ治兵衛にならんとしてもなれないでしょうけれども(笑)。
春を重ねし雛男
>藤十郎さま
>あの恥辱を受けた夕暮れの生玉のあとはずっと闇のなかでしか生きていないわけです。
置浄瑠璃の文言の美しさに酔えますね。藤十郎さまも作詞なさってはいかがでございましょ。
こういう論争大好きなので,良く拙宅でも議論吹っかけてます。これからもよろしく。
♪おとみさん
おとみさんをまねて吹っかけてみましたが、全然自信はないのです。
まあいろいろ思いついたことを言ってみようという感じですが、どんなもんでしょうね。
彼らが梅田橋を渡ったであろう元禄十六年四月八日未明はすでに月は沈んでおり、空にはかすかな星がまたたくだけだったようです。
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