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耳はさみ 

『源氏物語』の講座を月に一度大阪市で実施しています。9月は、二つ目の巻である「帚木」の1回目でした。この会では、原文を細かく読むのではなく、内容をまとめつつ、それに関連した歴史、風俗、習慣などのお話をしていく形を取っています。『源氏物語』を読めば、当時の人のさまざまな姿が見えてきます。それをきっかけに、彼らがどんなことを考えて生きていたかを読み解き、現代との相違や一致点を見ています。現代的な常識や価値観から見ると相容れない点も、奥深いところでは共通する面もありますので、そこを探るのもおもしろいです。全然違いますね、と言いながら、でもこう考えると我々と似ていますね、ということがしばしばあるのです。
つまるところ、人間はあまり進歩などしていないのだろうと思います。
「帚木」巻の前半は、

    雨夜の品定め

とも言われ、梅雨のうっとうしいある日に、光源氏の部屋に集まった若い男たちが、女性について「ああだ、こうだ」と話をする場面です。
その中で、ある男が「一家の主婦ともなったら、風流だのなんだのということばかり言っていては仕事にならないが、だからといって家事にかまけて耳はさみしているようなのもよくない」と、勝手なことを言っています。たしかに勝手なことなのですが、これが男たちの本音なのだと思います。女性のいないところでうだうだと話しているわけですから、本音が出てくるのです。そこがおもしろいところでもあります。
今の若い世代でも、子育てのために仕事を辞める女性はいますし、そもそもいわゆる「専業主婦」になって家庭にいることを喜びとする人だっています。でも、多くの人には夫婦ともに外で働くのがあたりまえ、という考え方があって、「専業主婦」というのは「昭和の遺物」のように思われがちです。平安貴族の女性は家の中にいるのがあたりまえでしたので、子育てはもちろんのこと、夫の着るものの用意をしたり、自分が炊飯するわけでなくても食べ物を整えたりするなど、主婦としての仕事もいろいろありました。それだけに、風流だのなんだのとばかり言っていては主婦にならない、という不満があるようです。ところが、その一方でなりふりかまわず家事にいそしんでいるだけというのも困る、というわけです。勝手な言い分ですが、今でも家に帰ったら奥さんがあぐらをかいてポテチをかじりながらテレビを観ているとがっかりする夫がある、という感じでしょうか。それを表現するのに、作者は

    耳はさみ

ということを言っています。髪を耳のうしろにひっかけるようにしてあくせく働く様子を言うのです。『源氏物語絵巻』「横笛」には雲居の雁というじょせいが夜泣きする子に困って、耳はさみをして胸をはだけておっぱいを吸わせる場面があります。
この話をしますと、この日のお話が終わって帰宅した後、会のLINEグループで盛んにこの話が話題になっていました。みなさんそれぞれの日常にあてはめて楽しくお話になっていたのです。
おそらく二度と「耳はさみ」のことを忘れる方はいらっしゃらないと思います。この日の話はうまくいった、かもしれません。

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