fc2ブログ

「今だけ、金だけ、自分だけ」 

元農水官僚で東京大学の教授になった、つまりエリートの王道を行くような(笑)鈴木宣弘さん(農業経済学)の『食の戦争 米国の罠に落ちる日本』(2013年 文春新書)に「今だけ、金だけ、自分だけ」という言葉が出てきて、当時から話題になりました。
食べるものなんて、どうしても「自分さえよければ」「自分さえ空腹を満たせれば」という気になるでしょうね。戦後まもなく、食糧難がひどかったころ、人々は闇市で法的には問題のあるヤミ米を手に入れることで生き延びてきました。しかし山口良忠さん(1913~47)という裁判官が食管法(食糧管理法)に違反するヤミ米をたべることを拒否して30代前半にして栄養失調で亡くなるというできごとがありました。この話は多くの人にショックを与えたらしく、当時から、「そんな法律にこだわる方がおかしい」「馬鹿正直すぎる」という批判的な意見もあった反面、法を守るべき裁判官として称賛する声も少なくなかったようです。私がその立場ならどうしたか、と考えると、おそらくヤミ米に手は出しただろうと思います。しかし同時に、とても嫌な気持ちは抱いただろうと、いい格好をしておきます。山口さんは「嫌な気持ち」どころではなく、法を守る信念を貫き通したわけで、少なくとも「自分だけ」という発想はなかったのだろう、と言えるのではないでしょうか。
鈴木宣弘さんの本に戻ります。私は鈴木さんのご専門の農業経済学なるものについてはよくわかりません。しかしそういうことを切り離して、きわめて簡潔な「今だけ、金だけ、自分だけ」という言葉で、

    現代の問題点

をうまく言いあらわされたことについては感心してきました。
そして少し前に、池内了さんの本を読んでいると、唐突にこの言葉が出てきたので驚きました。それは新型コロナウイルス感染症のことをお書きになっている文章でした(もともとは中日新聞に発表されたもの)。そこで池内さんは自国ファーストの政策をとる各国政府のやりたかについて批判的にこの言葉を用いていらっしゃったのです。
具体的には、診療機材を他国よりも高い値段で独占的に輸入しようという動きについて批判なさっていました。国民の危機なのにそんなこと、言ってられないだろ、自国民を守ることこそ政府の役割だ、という意見もわかります。日本政府はワクチンだってありあまるほど(実際、かなり廃棄されたようです)買っていました。もし不足しようものなら大変な批判を受けることになったのかもしれません。それでも、困ったときは

    何をしてもかまわないのではない

という理屈だけは忘れてはならないと思っています。
今だけ、という発想は、つまり歴史的なものの見方ができないということでしょう。過去のこと、未来のことを考えずに、朝三暮四の思考でものごとを判断すると必ず破綻します。金だけ、というのは、人と人との信頼だとか、人を思いやる気持ちだとか、そういうことをないがしろにしてでもお金さえあればそれでいい、お金が儲かるならそれでいいという考えにつながるでしょう。自分だけ、というのはもう言わずもがなで、他人が不幸になることなど見て見ぬふりをしてでも自分の利益を得ようとするわけで、これが極端になると詐欺、どろぼうの類になるのです。
私も聖人君子ではありませんので自分本位になることがあります。山口裁判官のようなことはきっとできないでしょう。それなのに勝手なことを言いますが、権力を持つ者は「今だけ、金だけ、自分だけ」になってほしくはないのです。歴史を学ばぬ政府、拝金主義の政府、詐欺まがいの政府などは御免蒙りたいものです。もちろん政府に限りません。企業だろうと学校だろうと、権力者に関しては同じことが言えると思っています。

にほんブログ村 演劇・ダンスブログへ
にほんブログ村
↑応援お願いします
jyorurisakushaをフォローしましょう

スポンサーサイト



コメント

人は間違えるもの

10年ほど前のことでしょうか。「決められる政治」が賛美されたことがありました。でも「人は間違えるもの」という前提に立つならば、大事なことを決めるためにはメリット・デメリットの両方を提示して議論し尽くすことが必要なのだと思います。
このところ大事なことでも議論しないで閣議決定してしまうことが多すぎるように思います。

♬やたけたの熊さん

閣議決定というのも、なんだか妙なものがありましたね。下手をすると密室政治になりそうで、危険を感じます。
私は、衆議院の解散というのも、「国会の議論があって内閣が不信任されたので解散します」と天皇に「助言」するものだと思っていて、総理大臣の専権だなんてどうしても思えません。

コメントの投稿















管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

この記事のトラックバックURL
http://tohjurou.blog55.fc2.com/tb.php/6612-543171fa