fc2ブログ

昭和の文楽(1) 

たまには文楽の思い出話を。
私が初めて文楽を見たのは1970年代の半ばだったと思います。ただ、なさけないことにその頃のことはあまり厳密には覚えておらず、ただ伝統芸能は知っておいた方が良いから、という程度の見かたで、文楽に夢中になる日が来るとも思っていませんでした。どういう技芸員さんがいらっしゃるのかもわからずどういう技芸がすばらしいのかもわかりませんでした。人形なんて誰が遣っても同じだろうという程度に考えていました。
ですから、最初に観たり聴いたりした技芸員さんのことはほぼ覚えていないのです。おそらくまだ三代相生太夫、六代寛治、二代喜左衛門、十代弥七などという人はいらっしゃったのでしょうが、その実演についてはまったく覚えていません。四代越路、四代津と言ったあたりの太夫さんが円熟する一歩前というか、一番脂の乗っていた頃だろうと思います。津太夫さんの豪快な語りはさすがによく覚えています。人形では、二代目栄三はもういらっしゃらなかったかもしれませんが、初代玉男、二代勘十郎、四代清十郎、三代簔助らの気鋭の人たちが中心となり、四代目亀松、二代目玉五郎らももちろん健在で、この人たちはもちろんよく覚えています。
当時、大阪の本拠地は朝日座。東京はすでに国立劇場がありました。道頓堀にはもちろんまだ中座もあり、寄席の角座もあって、まだ芝居町の面影を残していた頃でした。「大阪には

    こういう文化がある」

ということを誇れた時代ともいえるでしょう。
朝日座は閑古鳥の鳴く頃で、もうやっていけない、という時期に差し掛かっていて、国立劇場を建ててもらおうという動きが、大阪府、市、関西財界、学界などによって起こされていました。大阪府市が文楽の支援をするなんて、今の若者は信じられないのでしょうか。まだ大阪の政治家にも文化への理解のある人が多かった頃でした。
文楽なんて支援するお金はない、などと市民を煽る今どきの政治家のような考えは頭の片隅にもない人たちが大阪を支えていたのです。
朝日座時代に観た演目でよく覚えているのは『義経千本桜』「すしや」でした。やはり太夫さん、三味線さんは覚えておらず、人形は初代玉男が権太、これはもうはっきり覚えているのです。そして四代清十郎が維盛だったような、これはややあやふやな記憶しかありません。お里は、弥左衛門は、梶原は・・などはまったくわかりません。
もうひとつ明確に覚えている舞台は

    『心中天の網島』

で、これは越路太夫・清治の「河庄」。人形はおそらく初代玉男、三代簔助の忠兵衛と梅川。孫右衛門は二代勘十郎だったのではないかと思います。こういう舞台にめぐり合えたのは至福としか言いようがありません。
四代清十郎さんで覚えているのは意外にも『曽根崎心中』の徳兵衛。あとでお弟子さんの清五郎さんにうかがったところでは「師匠の徳兵衛は一度きりでした」とのこと。この徳兵衛の道行がよかったのです。ドナルド・キーンさんが「道行の徳兵衛は背が高くなる」といったように、頼りない男ではなく、愛の崇高さを体現するような徳兵衛でした。
「熊谷陣屋」は津太夫。これはもう、息も継がせぬ大熱演で、終わると思わず「ほーっ」と声が出そうになりました。「もしまた敦盛生き返り」など、西洋風のドレミファ音程でいうならあまり正確ではなかったのかもしれませんが、そんなことはおかまいなし。ほかにも「盛綱陣屋」「弁慶上使」などは劇場の天井を震わせるような凄絶な語りでした。「沼津」ではほんとうに泣きました。
当時の私はまだ文楽の技芸の良しあし、義太夫節の何たるかなどまるで理解していませんでしたから、「へた」な人は分からないのですが、「うまい」人はよくわかったような気がします。
当時はテレビでもしばしば放送がありましたので、チラチラと見ていましたが、まだビデオが普及しておらず、録画できないころでした。

にほんブログ村 演劇・ダンスブログへ
にほんブログ村
↑応援お願いします
jyorurisakushaをフォローしましょう

スポンサーサイト



コメント

愛しの道頓堀。

角座の廊下で黒紋付き姿の六代目笑福亭松鶴とすれ違ったときの恐怖(笑)。
中座の恐ろしく狭い桟敷席で藤山寛美率いる松竹新喜劇を見物した日のこと。
道頓堀は芝居街でした。
あの道頓堀はどこに消えてしまったのでしょうか。

🎵やたけたの熊さん

松鶴師匠を間近で見たことがありません。ごつごつした人なのでしょうね。中座が焼けたのは文化をないがしろにした大阪の政治家たちへの抗議の自決だったようにさえ感じました。
道頓堀の華やかな通りと少し侘しい裏通り。今や、免税店やドラッグストアが大きな顔をする街になってしまいました。
侘しい表通りになりました。

コメントの投稿















管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

この記事のトラックバックURL
http://tohjurou.blog55.fc2.com/tb.php/6624-0d1598e2