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つまはじき 

『源氏物語』「帚木」巻で、藤式部丞という男が、女性についての経験談をする場面があります。式部丞というのは式部省という役所の三等官で、ここのトップは式部卿。これは親王が任ぜられ、平安時代中期くらいになると実際の仕事はあまりしなくなります。実務をおこなう官僚という意味でのトップは次官に当たる式部大輔。これはかなりのインテリでないと務まりません。有名な人物としては藤原道長に重用された大江匡衡がいます。赤染衛門の夫です。この人は、元号や皇子の名前の案を考えたり、道長らから依頼されて格調高い文章を作成したりしたことでも知られます。
藤式部丞は藤原氏の式部丞ということで、紫式部の父親の藤原為時もこの職を務めたことがあります。それで、その娘は紫「式部」と呼ばれているわけです。
さてこの男の経験談、とんでもないインテリ女性と付き合った話です。彼女は博士の娘で、親譲りで漢文が得意(紫式部みたいです)。

    寝物語

で、官吏としての職務遂行の役に立つような教えを垂れたり、手紙をくれると漢文で書いてあったり、と、まったく普通の女性とは異なるのです。
そして式部丞に漢詩の作り方も教えたために、彼は今ではそれなりの詩が作れるようになったという、まさに師匠のような人なのです。
彼はこの女性と結婚したかったのかと言うと、実はそこまでは考えていなかったようで、久しく訪れなかったりすることもありました。あるとき、久しぶりに行ってみると、部屋には入れてくれません。どうしたのかと思ったら
  月ごろ風病重きに堪へかねて、極熱の
  草薬を服して、いと臭きによりなむ、
  え対面賜らぬ、まのあたりならずとも、
  さるべからむ雑事らはうけたまわらむ
と言うのです。何という堅苦しい言葉遣いでしょうか。「風病(ふびやう)」「堪へかね」「極熱の草薬」「服し」「臭き」「対面」「雑事」などなど、

    普通の女性

が用いる言葉ではないと思います。普通なら「月ごろ風いと重ければ、蒜(ひる)といふなる薬、用ひぬ。便なきによりてなむ、内にな入りたまひそ。もの越しにてもとかく承らはむ」とか何とか言いそうなものなのに。
この話を聞いていたのが光源氏や頭中将たち。彼らは「作り話に決まっている」と非難して「つまはじき」をしました。
「つまはじき」ということばは、もともとは「嫌悪」「非難」の気持ちを表現する動作を意味しました。その動作というのは、文字どおり中指や人差し指の爪を親指の腹(爪の反対側のやわらかいところ)に当ててはじく行為を指すのです。文字どおり「指弾する」のです。おそらく光源氏たちは実際に指を使って式部丞に向かって爪を弾いたのだと思います。
今、この言葉は「他人を嫌って排斥する」「仲間はずれにする」というような意味で使われていますが、私も仕事場では最終的にこんなふうになってしまったな(笑)と残念な気持ちを持っています。

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