東博にて 

15日、午後。東京駅について、その足で上野の東京国立博物館に行きました。
何度か書きましたが、

  宮廷のみやび 近衛家1000年の名宝

を見に行ったのです。
これまでにも何度か京都宇多野にある

    陽明文庫

のお蔵には入れていただいています。
そして、さりげなく置かれているお宝の山を拝見してきました。
今回展示されている

  藤原鎌足像     春日鹿曼荼羅図    源氏物語
  大手鑑        古今和歌集


など、もう目の前で手に取れる距離で何度か拝見したものです。
それらが、こうしてケースの中に入って展示されているのを見ますと、独特の感慨があります。
掛け軸も多く出ていましたが、実は私が陽明文庫での研究会に入れていただいていたとき、文庫長さんがさりげなく床の間に掛けて下さっていたものがやはり展示されていたのです。
思えば本当に贅沢なことをさせていただいたわけです。

最大のお目当ては、やはり

    『御堂関白記』

藤原道長の日記です。
当時の貴族には毎年、具注暦という巻物状の暦が配布されるのですが、それにはわざと余白が空けてあります。そこに各自が日記を書けるようになっているわけです。
だいたい4行くらい書けます。
書ききれない場合は裏書といって、裏面に続きを書くのです。
その、道長の書いた自筆の日記が今に残っているわけです。
もちろん国宝です。
展示されていたのは、

  寛弘四年の金峯山参詣の記事
  寛仁二年の大饗にまつわる記事
  寛弘五年の敦成親王(後一条天皇)誕生の記事  
  寛弘元年の息子頼通が春日祭使となったときの記事(裏書)

とにかく感激しました。金峯山の記事のすぐ横には(あまり注目されていませんでしたが)道長が埋めた金銅の経筒(金峯神社蔵)も展示されていました。
『御堂関白記』で一番感動したのは寛弘元年のもの。
道長が、春日祭の使者となって大和に出かけた息子を案じて藤原公任、花山天皇と歌を交わしたのですが、その歌がすべてかな書きで出ているのです。
見ているうちにじわっと涙があふれそうになりました。
そしてすべてを見終わって帰ろうと思うと・・・そこにN文庫長さんのお姿が!

     N さん!

声をおかけすると、Nさんは一瞬「?」というお顔をされましたが、すぐに満面の笑み。

    来てくれたんかいな

というお顔でした。しばし昔話をして、でもあちらはお仕事ですから長居もできず、

    ではまた、お目にかかれますように

と申しました。

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するとN文庫長はぐいと手を出されて握手してくださいました。
もう60代の後半のはずですが、力強い握手で、また涙があふれそうになりました。
いや、実はあふれていたのです。それを隠すのに精一杯でした。

    来てよかった!

心からそう思いました。
いわば私の20代後半からの20年間のささやかな研究生活はこの『御堂関白記』といつも一緒だったのです。
研究者として何の実績も残せないまま今に至っていますが、かろうじて仕事といえるものがあるとすれば『御堂関白記』関係だろうと思います。
道長に、Nさんに、陽明文庫に、そして研究会の仲間に、恩師Y先生に・・。感謝、感謝の思いが尽きないのであります。

翌日、朝9:30の開館と同時に私はもう一度国立博物館に飛び込みました。
すでにかなりのお客さんでしたが、私は一目散に『御堂関白記』寛弘元年のところ(出口の近くに展示されています)に走りました。
お客さんはみなさんまだ入口近くにかたまっていますから、そこには

    誰もいません

たった一人で30分ばかりたったひとつの展示品に見入って、

    勉強しよう

と改めて誓って帰ったのでありました。

コメント

至福の時間

第6室は本当にすばらしかったです!
私も長い時間、ずーっと入り浸っていました。
道長の隣の行成にもうっとり。あんなかなが書けたらなぁ…
同じく、勉強しようと改めて思いました。

♪ツチ子大夫さん

ツチ子さんには昨年も東博の「『受胎告知』の見方」を伝授していただきました。
行成の「白氏詩巻」は「受胎告知」の時に国宝室で出会って以来です。
ツチ子さんは達筆だったんですよね。うらやましいです。
予楽院さん(近衛家煕)もいい字を書かれますね。
ああ、もう一回行きたい・・・。

御堂関白記も

藤十郎さんに見に来てほしかったのではないでしょうか。結局、ものの価値というものは、私のような興味本位で見に来る者には、かけらしか見えません。御堂関白記とながい間、格闘された藤十郎さんのお話を読ませて頂いて、お礼をいいたくなりました。

♪春子さん

ありがとうございます。
学生時代に、こんな研究会があるという一通のハガキに誘われてなにげなく参加したのですが、それがもう生涯の仕事になってしまいました。
今も『御堂関白記』だけは読まない日がないくらいです。いつも頭の片隅に『御堂関白記』があるといっても過言ではないのです。
価値、といわれますと私もまるで分かりませんが、私にとって大事な一書であることには違いありません。
格闘はするのですが、いつもノックアウトされています(笑)。
お礼などとはとんでもないです。

それはすごい

いつも『御堂関白記』が頭にある、読まない日がないとはさすが藤十郎さま。研究者の鑑! 

研究・教育・雑務のどれもぼちぼちタイプと自分では思っていますが、結局日々頭にあるのは眼前のやらなければならないことで、研究上の壮大な?夢とはかけはなれています・・・ 

♪野崎小町さん

いや、そんなたいしたものではないのです。読むと言ってもほんの数行。というか、その数行を何日もかけて読むという感じです。つい食堂に持って行ったりしています。
いつも頭にあるのは事実です。わからないことだらけで、あれも分からん、これも分からん、と、頭から離れてくれません。
今は研究室の引越しのことでどこから手をつけてよいのか考えることも多いですけどね。

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