文楽・超入門(12)
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文楽に接し始めた頃、なんとも奇妙な感じがしたのが
オクリ
でした。芝居の途中で太夫さんが交代するときに演奏される旋律ですが、これがなんとも不思議なのです。たとえば、
『菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)』の四段目で言いますと、
下部(しもべ)引連れ、急ぎ行く
というところで太夫さんが交代するのです。
千代という女性が息子を入門させるために寺子屋に連れてきて「では、あとはよろしく」と寺子屋の奥さんにお願いして、下男を連れて急いで帰っていく、というところです。
どうせならこの部分を語り終わってから次の人にバトンタッチすれば意味がわかりやすくていいのに、なんと、前の部分を語る人は「しもべ」まででやめちゃうんです!
ですから、あとの人は
「引き連れ」から語り始める
わけで、何を引き連れるんだかわからない(笑)語り出しになります。
ところが文楽に親しむようになると、ここがまたたまらなく面白く感じられるから不思議です。
特に三味線の引き出しの旋律が味わい深く、これから始まろうとする芝居の雰囲気を伝えながらの演奏となります。
「チンチンチンチンチン・・・」と、三の糸(一番高音の糸)の開放弦から始まって、「テテン、テン、テン・・・」と二の糸に引き継がれ、しばらく二と三の糸を行き来し、やがて一の糸のドンという音につながります。
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で、どうしてこんな妙な切り方をするのかということなのです。
いや、私は今無造作に「切り方」と言いましたが、実は
切れていない
のです。あくまでも「オクリ(送り)」であって、送って受け取ってもらうわけです。太夫は交代しても話は続いているわけで、その余韻を響かせる部分が「オクリ」なのだろうと思います。
ただ太夫、三味線が交代するため、人形遣いさんが担当する「口上」でその紹介をする必要があり、切れた感じになるのは事実です。
太夫が交代しない「オクリ」もあります。例えば
ひらかな盛衰記
で「松衛門内(まつえもんうち)」から次の「逆櫓(さかろ)」の段までを一人の太夫が通して語る場合、前段の最後、「皎々とこそ聞こえけれ」の「皎々」で静々としたオクリとなりますが、三味線の演奏は続き、太夫は勢いのある高い声で「とこそ聞こえけれ」と続けます。
『一谷嫩軍記(いちのたにふたばぐんき)』「熊谷陣屋」の「奥へ連れてゆく」、『絵本太功記(えほんたいこうき)』「尼崎」の「一間に入りにけり」、『本朝廿四孝(ほんちょうにじゅうしこう)』「勘助住家」の「こそは帰らるる」など、なんでもない言葉なのにズシリと重い印象があります。
重要な場面のオクリからは、今から始まる芝居の、そしてそれを語る太夫さんの「格」まで感じさせられることもあります。
- [2009/01/14 00:00]
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コメント
私の文楽入門
私が最初にちょこっと覚えた浄瑠璃が、「引き連れ急ぎ行く」でした。文楽劇場の売店で、住大夫さんの直筆サイン入りカセットテープ、文字通り「文楽入門」を聞いて覚えたのでした。
でも「引きつれ」の「れ」だけで、のばすのばす。「れ」と言うよりも「え」の長いこと(笑)。
♪やたけたの熊さん
私もあのテープ、持っています。富助さんが三味線ですね。
住師匠、「オクリが一番気ィ使います」「ここが一番しんどいんです」「笑い泣きが一番難しいんです」「いろは送りが一番大変です」……「一番」が多い解説をされていました。
私は「大井川」の「追うて行く」だったかも知れません。
一番
住師匠は「一番」を連発されてましたね。他に「太夫が一番芯(シン)でんねん」、「太夫が一番しんどいでんねん」・・・。小心者の私は、三味線、人形の方々が気を悪くされないか、ハラハラしながら聞きました(笑)。
私そのころ道を歩きながら「いろは送り」をときどき口ずさんでました。ヘンな若者です。いまはヘンなオッサンですが(笑)。
れてぞ
山川静夫さんの書かれた「綱大夫四季」の解説で永六輔さんが「妹背山婦女庭訓 金殿」のオクリについて咲大夫さんとの面白いやり取りを紹介されていました。金殿は「別れてぞ」の「れてぞ」で始まるのでしたね。
♪やたけたの熊さん
以前某大夫さん(スキンヘッドの)と電車に乗り合わせたことがあって、その時ほかのお客さんにかまわず口をもごもごされていました。お客さんは徐々に彼の席から遠ざかって行ったのでした。
私も時々やっちゃいますが・・・。
♪やなぎさん
「とこそ」で始まるものとか、いろいろ不思議な語り出しがありますね。
「綱大夫四季」の永さんといえば、安藤鶴夫さんに「義太夫が好きになれない」とおっしゃって、安藤さんから「下手なのを聴くからだ」といわれ、「山城という人でした」とおっしゃると安藤さんが「君は日本人じゃない」と怒られたというお話があったのを覚えています。
「れてぞ」もあったんですね。
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