文楽超入門(番外)〜文楽初体験の方へ 

毎公演、文楽初体験の方がいらっしゃるはずです。
もしそういう方が「どんな芝居だろう?」と思われてネットを探し回られたら、と余計なおせっかいをするのです。

この公演、今日は休演日で、明日からいよいよ後半です。
そこで、簡単に見どころを書いておこうと思います。

後半の第一部は「双蝶々曲輪日記」「八陣守護城」です。

「双蝶々」は長い話ですが、今回はその一部分です。
関取の

  濡髪長五郎(ぬれがみ ちょうごろう)

が、ごひいきの息子さんの恋愛を邪魔する男を殺して追われる立場になることを示す「難波裏喧嘩」。
ここでは濡髪の豪快な力強さが見られます。

そして「引窓」の段。
濡髪は八幡にある母親の再婚先に別れの挨拶に行きます。そこは母の継子である

  与兵衛

の家でもあります。よりによって、この与兵衛はこの日庄屋代官に取り立てられて、濡髪を逮捕する役目を担わされています。
濡髪は潔く名乗り出ようとし、母や与兵衛の妻(お早)は逃がそうとします。与兵衛も事情を知ってついに逃がしてやるのです。
この場面では「引窓」(灯り取りの天窓)が大きな意味を持ちます。実は与兵衛の任務は夜の間だけ。
そこで最後は天窓を開けて、差し込む月の光を「夜明けの日の光だ。自分の役目は夜だけだから」といって逃がしてやるという趣向なのです。折しも放生会(捕えた生き物を逃がしてやる日)のことです。
しみじみとした母親と濡髪のやり取り、陰で支える嫁のお早。そして与兵衛の慈悲心。そういう人々の愛情が浄瑠璃の切々たる語りによって描かれます。
私が始めて泣いた浄瑠璃はこの作品でした。
やや地味な話で、初めての方にはひょっとしたら退屈かもしれませんが、よく浄瑠璃をお聞きになってください。じわっと来るかも知れません。

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「上方芸能」170号 

季刊誌

    上方芸能

が刊行され、昨日私の手元に届きました。書店にもすぐに並ぶことと思います。
今回の特集は大衆演劇です。
根強い人気を持つ大衆演劇の本質や現状について詳しく書かれています。
実は私はあまりよく知らないものですから、こういう機会にいろいろ教わろうと思っています。

「贔屓のひき起こし」のページには高木浩志さんが

    竹本綱大夫 師匠

について書いていらっしゃいます。
綱大夫さんくらい多くのレパートリーを持つ人はいない、というお話から始まって、若き日のお二人のご関係などが紹介され、最後にはまだまだ頑張っていただきたいとエールを送っていらっしゃいます。

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文楽・超入門(7) 

近松門左衛門のことをずいぶんあれこれ書きました。
実際、今でも近松作品は人気演目です。
「曽根崎心中」など、好きな演目のアンケートをとると常に上位にいます。
近松以後の作者で著名な人といえば、並木千柳(なみき・せんりゅう)、三好松洛(みよし・しょうらく)、竹田出雲(たけだ・いずも)らがいます。彼らが作った名作に

    時代物の三大名作

といわれるものがあります。
すなわち、

    義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)

    仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)

    菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)

の三つです。
今でもこの3つの演目は近松作品に勝るとも劣らない人気を誇っており、歌舞伎にも移されて、不朽の名作といわれています。
「時代物」というのは過去の時代に材を取ったいわば時代劇。ところが、舞台に繰り広げられる風俗などは江戸時代風になっており、時代劇と現代劇がミックスされているわけです。
たとえば「菅原伝授手習鑑」は菅原道真とその周辺の人物が登場しますから、時代は平安時代です。ところが、男性登場人物の皆さんの多くはなぜか前額部から頭上にかけて髪をそり上げた、いわゆる「月代(さかやき)」を剃っています(これは中世末期からの風俗)し、着物も全く江戸時代風。
この作品の名場面といえば「寺子屋」ですが、寺子屋なんて平安時代にはありません。
ものの考え方も儒教道徳の色濃い江戸時代風です。
しかし、考えて見ますと、今の時代劇(「水戸黄門」とか「遠山の金さん」とか)も、現代風の考え方で描かれることは当たり前で、大岡越前が奥さんと並んで町を散歩したり、町のおかみさんがお歯黒もせずに白い歯を見せてにっこり笑ったり、また純愛ブームになると時代劇もそういう観点から描かれ、政界と財界の癒着が問題になると時代劇にやたら「河内屋」が出てきたり(笑)しますよね。

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清十郎の紋 

紋というのはデザインとしてすぐれているものが多いですね。……と、偉そうにいっても私は美術を見る目が怪しいですし、そもそも紋についての知識は実に怪しいのです。
自分の家の紋も「たしか、片喰(かたばみ)だったなぁ・・」という程度です。

もっともポピュラーなのは三つ葉葵(徳川葵)でしょうか。いつぞや子供がこの紋を「水戸黄門マーク」と言ったとか。
そういえば、子供の頃から「不思議な社名だ」と思っていた醤油の「キッコーマン」が「亀甲に萬(きっこうにまん)」の紋であることに気付いたのはかなりあとになってからでした。

文楽の技芸員さんもそれぞれ紋をお持ちですが、あまり詳しく存じません。住大夫師匠は木瓜でしたか? 寛治師匠は地紙の捩じ紋だったと記憶します。咲大夫さんの「丸に十」は一度見たら忘れられません。

登場人物も紋と共に記憶される人があります。大星由良助の「二つ巴」、熊谷の「向鳩」、「近江源氏」などの佐々木の「四つ目」などは有名です。
大星が「城明渡し」で提灯から切り取る塩冶家(浅野内匠頭も)の「違い鷹羽」も印象的です。史実の塩冶家は「花輪違」だったそうですが・・・。

そして今、

    八陣守護城

で目立っているのが加藤正清(清正)の

    蛇の目

です。

そうそう、この文楽公演で目立つ紋といえば、もう一つ大事なものを忘れてはなりません。

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展示室 

文楽劇場のお楽しみの一つは

    展示室

ですね。
ただいまは『八陣守護城』の主人公加藤正清こと

    加藤清正

に関する資料の展示があります。
尾張出身の清正は秀吉に仕えて、関が原合戦では徳川方に付き、しかし秀頼と家康の和解には努めたようです。
そんな清正の資料がいろいろ出ています。
長〜い「烏帽子なり」の兜もありますよ。
そしてもう一つの企画は

    四世 豊松清十郎

懐かしい写真や遺品の舞台下駄などのほか、今回襲名された五世の少年時代の写真も展示されています。

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